まとめ
- 子宮穿孔/破裂の生存率は治療方法で差がない
- 子宮穿孔/破裂の多くは右の子宮角
- 入院日数・退院後の繁殖成績は治療方法と関連性がない
はじめに
昨シーズンはかなり多数の子宮穿孔/破裂馬の診療を実施しました。診療所全体で10頭以上の子宮穿孔/破裂馬の手術を実施したように思います。
本シーズンでもすでに数頭の手術を実施しています。
私が執刀した症例も1例おり、手術後、復調までに時間を要したものの、現在は良好だと聞いています。
この子宮穿孔/破裂については、2つの治療方法がよく知られています。
1つは開腹手術により腹腔内洗浄および子宮穿孔部位の閉鎖を行う方法。
もう1つは、ドレインにより腹腔洗浄を実施しながら子宮穿孔部位の閉鎖まつ、内科療法です。
僕が勤務する診療所ではほぼ全ての症例で開腹手術を選択しています。
しかしながら、獣医師によっては内科療法で十分に治癒すると考えており、議論の余地があります。
今回紹介する論文は、この2つの治療方法について比較を実施した論文になります。
今回紹介する論文は
Comparison of surgical and medical treatment of 49 postpartum mares with presumptive or confirmed uterine tears.
Veterinary Surgery 39; 254-260. 2010
になります。
この論文では分娩時に発生する子宮穿孔/破裂に関して治療方法とその予後について検討しいます。
2つの馬二次診療施設での成績を合わせて一つの論文として報告している。
この論文の結果では、49頭の分娩後子宮穿孔の繁殖牝馬に対して、治療を実施している。
全体の生存率は75%。内科的に治療を受けた群の生存率は73%(11/15)に対し、外科的に治療を受けた群では76%(26/34)の生存率だった。
生存率、治療費、入院日数そして、治療後の繁殖成績について治療方法により比較を行ったがそれぞれの治療方法による差は認められなかった。
予後不良であった症例では、生存した症例に比較し、胃逆流を認め、心拍数が高い値を示した。穿孔/破裂は右子宮角でもっとも多く認められた。
この研究の結果より、子宮穿孔/破裂は右の子宮角で多く認められること、さらに治療方法は予後に影響しないことが示された。
内科的治療は外科的治療の代わりに行うことが可能な治療方法だと言える。しかし、内科的治療により、どの程度の子宮穿孔/破裂についてまで治療可能なのか特定することはできなかった。また、内科的治療では外科的治療と同程度の医療費がかかることが明らかになった。
感想
僕の経験した子宮穿孔/破裂の症例数はそれほど多くはないけど、僕自身の意見としては子宮穿孔/破裂と診断した場合、外科的介入による腹腔洗浄および穿孔部位の閉鎖が最も適切な治療だと考えている。
1点目の理由としては、論文での記載があるようにどの程度までが内科治療で治癒するのか明らかにされていない以上、積極的に外科治療を行うべきだと考えているからだ。穿孔/破裂の部位や大きさについてはいつも正確な診断が可能なわけではない。正確な状況が把握できない可能性がある以上、より深刻な状況を考慮にいれてよりベターな治療を行うべきだと考えている。
2つ目の理由としては、腹腔ドレインによる腹腔洗浄のみの洗浄で腹腔内を十分に洗浄できていると思えないからだ。子宮穿孔/破裂による腹膜炎では腹腔内に多くのフィブリンやdebrisなどの貯留が認められる。また、腹腔内には多くの臓器があり、隅々まで洗浄するのは開腹手術中であっても根気のいる仕事だ。
上記のような理由から私は開腹手術による穿孔/破裂部位の閉鎖と腹腔洗浄がよりベターな治療方法だと考えている。
残念ながら今回の論文では開腹手術の優位性が示されてはいないものの、
論文中の症例では重症例ほど開腹手術が実施されている可能性も否定できない。
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