馬;脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術;新しいアプローチの検討 Vol.1

まとめ

  • 飛節の底外側アプローチで骨片摘出可能
  • 背外側アプローチよりも容易(だと思う)

はじめに

 馬の飛節に認められる脛骨遠位外果骨折は主に捻挫に伴う骨折であり、あらゆる年齢の馬において認められる。

骨折の発症要因としては外傷性もしくは脛骨外果に付着する側副靭帯の捻挫に起因すると考えらえており、治療方法としては保存療法、関節切開術による骨折片の摘出が報告されている。

また、骨折片が大きい場合は内固定手術による治療も有用であることが示されている。

 近年、関節鏡手術による脛骨遠位外果骨折片の摘出が2報の論文により報告されており(O’Neill & Bladon 2010, Smith & Wright 2011)、これらの論文では脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術での骨片摘出術は低侵襲であり、予後が良好であることが示された。これらの2報の論文では関節鏡および器具はいずれも飛節の背外側から挿入し、手術が実施している。

 宮越らは平成28年度産業動物獣医学会(北海道)にて「馬の脛骨外果骨折の10例」を発表し、この中で2頭は関節鏡と関節切開を併用、3頭は関節鏡手術を用いて骨折片の摘出を実施した。この際には、70°の関節鏡を用いて、主に底内側から関節鏡を挿入し、底外側に器具孔を作成し関節鏡手術を実施した。この術式では、70°の関節鏡を使用する必要があること、骨片の背側方向の視野が悪いことといった問題点が認められた。

 また、田上らは第59回競走馬に関する調査研究発表会にて「サラブレッドの脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術」を報告し、22頭の脛骨外果骨折に対して関節鏡視下骨片摘出術を実施し、その予後が良好であることを示した。田上らはO’Neil & Bladon(2010)およびSmith & Wright(2011)らの報告と同様に飛節の背外側より関節鏡および器具を挿入し手術を実施し、必要に応じて底外、底内、そして背内にポータルを作成したと報告している。

 脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術において、背外側からのアプローチはこれまでの報告から最も普及した方法であるが、飛節の背外側腔は狭く、関節鏡挿入部と器具孔が近いため器具の操作は困難であり、手技には習熟が必要であると指摘されている。さらに、背外側からのアプローチでは症例によっては骨片を確認することが困難であり、骨片を覆う軟部組織のみしか視認できず、軟部組織をロンジャーなどで除去し骨片と骨折線を確認する必要があり、この点でも熟練していない術者にとって難易度が高いと考えられる。

 このような従来の方法の問題点を改善するために、これまでに報告のない、底外側に関節鏡挿入部および器具孔を作成する新たなアプローチにより2例の脛骨遠位外果骨折症例に対して関節鏡手術を実施した。本稿ではこの新たな脛骨外果骨折症例に対するアプローチ方法の有用性を検討した。

手術方法

関節鏡手術は、イソフルラン吸入麻酔下、仰臥位で実施した。飛節を軽く屈曲させた状態(130°程度)で保定し、飛節全体を毛刈り、消毒を実施した。

 背内側に20G針を挿入し、その針から生理食塩水を注入し関節を拡張させ、底外側腔の膨張の最も底側に小切開を加え、関節鏡を挿入した。関節鏡を挿入した位置よりも背側に20G針を挿入し位置を確認した後、小切開を加え、器具孔を作成した。



 骨折線を確認後、骨折線にエレベーターを挿入し、骨片を起こして分離した。その後、大型のロンジャーを用いて骨折片を把持し、ロンジャーを回転し骨片に付着する靭帯を捻じ切り、骨折片を摘出した(図2)。


 骨片摘出後、飛節の背外側に器具孔を作成し、ロンジャーおよび関節鏡用電動シェーバーを用いて骨折部および側副靭帯のデブライドメントを実施した。

 最後に関節腔内の洗浄を実施し、関節腔内のデブリスを排出し、X-ray検査にて骨片の摘出と関節内にジョイントマウスがないことを確認した。

 3か所の小切開部位は2-0モノフィラメント吸収糸で皮膚縫合を行い閉鎖し、飛節に圧迫包帯を行い、頭部および尾をロープで補助する補助起立にて全身麻酔から覚醒させた。
 術後4日間の抗生剤投与および包帯の巻替えを行い、手術から10-14日で抜糸とした。

症例1

  8ヵ月齢のサラブレッド種牡馬。6ヵ月齢時に右飛節の腫脹のため、X-ray撮影を実施したところ右脛骨遠位外果骨折が明らかとなった。この段階では骨片はほとんど変位しておらず保存療法を選択した。

しかしながら初診時から1ヵ月後の再検査では骨折片の変位が認められたため、8ヵ月齢時にイソフルラン吸入麻酔下にて右飛節の関節鏡手術を実施し、脛骨遠位外果骨折片を摘出した。手術方法は前述した底外側からのアプローチを用いた。

関節鏡手術では骨折線および骨片を容易に視認することが可能であった。麻酔時間は112分であった。手術後、合併症は認められず、経過は順調であった。

症例2

  11ヵ月齢のサラブレッド種牡馬。11ヵ月齢時に右飛節の腫脹を認めX-ray撮影を実施したところ右脛骨遠位外果骨折と診断された。骨折部位は変位しており、発症から20日目にイソフルラン吸入麻酔下にて右飛節関節鏡手術を実施し、脛骨外果の骨折片を摘出した。

手術方法は前述の底外側からのアプローチを用いた。骨折線および骨片は関節鏡にて容易に視認可能であった。麻酔時間は77分であった。手術後、合併症は認められず、経過は順調であった。

結果

いずれの症例においても底外側からのアプローチにより、容易に骨折線および骨折片が確認でき、骨折片の摘出可能であった。手術後の経過も良好であり、合併症は認められなかった。

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