今回ご紹介するのは、手術そのものではなく、その成否を確かめる方法についての論文です。Mespoulhès-Rivièreらが2016年に American Journal of Veterinary Research に発表したもので、環椎の翼孔(alar foramen)の高さで第1頸神経を超音波ガイド下に電気刺激する手技の、実行可能性・再現性・安全性を検討しています。
喉頭再支配の手術では、移植した神経がCAD筋を実際に動かしているかどうかを確かめたい場面があります。神経を刺激して披裂軟骨が動けば再支配は成立している、という理屈です。ただし、そのために毎回頸部を開くわけにはいきません。経皮的に、正確に、繰り返し刺激できる場所を探す、というのが本研究の趣旨です。
研究の概要
馬の環椎の翼にはそれぞれ2つの孔があり、尾側が横突孔、吻側が翼孔です。第1頸神経の腹側枝は、椎間孔と翼孔をつなぐ短い溝を通ったのち、翼孔を下降して環椎窩に至ります。この経路のうち、翼孔の位置が体表からの目印になる、という着眼です。
研究は2段階で構成されています。まず馬の死体4頭(クォーターホース、フランス温血種2頭、コネマラポニー)で第1頸神経の走行を剖検により確認し、第1・第2頸神経の間の吻合の有無を調べました。次に、臨床的に正常なスタンダードブレッド6頭(牝3頭、去勢3頭、5〜18歳)で、3週間隔で3回、両側の超音波ガイド下刺激を行い、各回の後5日間、毎日観察しています。
結果
死体では、4頭すべてで第1頸神経が翼孔を通過していることが確認されました。第1頸神経と第2頸神経の腹側枝の間の吻合も4頭全例にあり、その位置は環椎の翼から肩甲舌骨筋への進入部までの経路の上位3分の1でした。第1頸神経と副神経の間の交通枝も、4頭すべてに認められています。
生体の6頭では、3回の実験すべてで両側の刺激に成功しました。成功の確認は同側の肩甲舌骨筋の攣縮によります。反応を得るまでの試行回数は平均で1.2回(第1回)、1.8回(第2回)、1.5回(第3回)でした。プローブを当ててから反応が得られるまでの時間は平均85秒、173秒、60秒、閾値電流は0.22mA、0.18mA、0.11mAと推移しています。
第2回で時間も試行回数も増えているのは、第1回で「かなり低い電流でも反応する」と分かったため、より低い閾値を得ようと針の位置決めに時間をかけたためだと説明されています。実際、第2回では0.02mAで肩甲舌骨筋の反応が触知できた例もあり、そのとき針は超音波上で神経に接していました。ただし著者らは、針が神経周囲組織にあっても0.5〜1mAであれば刺激できるため、神経を実際に貫通させる必要はないと考えている、と述べています。
安全性については、刺激部位の24時間後の超音波検査で血腫は検出されず、感染も起きていません。1頭で表在の皮膚血管を穿刺し、約5×5×3cmの表在性血腫が生じましたが、無処置で72時間以内に消失し、超音波での神経の描出と刺激自体は妨げられませんでした。試行の約25%で刺入時に馬が嫌がる反応を示し、ブトルファノールが追加されています。鼻捻子は一度も使われていません。また10回ほど、針が内側に寄りすぎて第1頸神経の背側枝を刺激してしまい、頸部上方の筋の攣縮と軽度の不快感が見られたため、針を外側に置き直したと記載されています。
なお1頭では左の翼孔に変形があり、過去の頭頸部外傷が疑われました。この馬でも第1頸神経の同定自体は可能でした。
著者らは、明確な学習曲線があるとしたうえで、この手技は安全かつ簡便であり、自然発症の喉頭片麻痺の馬において第1頸神経移植や神経筋茎移植の後の再支配を評価するのに使える可能性がある、と結論しています。
日高での意味
この論文は術式の論文ではありませんが、シリーズを通して読むうえでは重要な位置にあります。前回までの研究では、再支配の成否を確かめるには内視鏡で偶然その動きを捉えるか、剖検して組織を見るしかありませんでした。経皮的に神経を刺激して披裂軟骨が動くかを見る方法が確立されると、生きている馬で、しかも繰り返し確認できるようになります。実際、次回紹介するRossignolらの臨床例17頭の報告では、この手技がそのまま成績の判定に使われています。手術そのものより、それを評価する道具立てが揃うことで臨床研究が進む、という一例だと思います。
感想
神経再移植の成否を確認できるようになった画期的なブレイクスルーの1つだと思います。
これ以前は運動してみて、その反応により成否を判断していたのに比較し、素晴らしい成果だと思います。
だた、神経刺激用の機器が高いことだけが私にとっての問題点です。
出典
Mespoulhès-Rivière C, Brandenberger O, Rossignol F, Robert C, Perkins JD, Marie J-P, Ducharme N. Feasibility, repeatability, and safety of ultrasound-guided stimulation of the first cervical nerve at the alar foramen in horses. American Journal of Veterinary Research. 2016;77:1245–1251.
X(旧Twitter):@Steelma49143492
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