今 回ご紹介するのは、Rossignolらによる改良第1・第2頸神経移植術の症例集積です。Equine Veterinary Journal に2018年(オンライン公開は2017年)に掲載されました。実験動物ではなく、飼い主のいる臨床例17頭を対象にした報告です。
これまで馬で行われてきた再支配法は、実質的に神経筋茎移植のみでした。一方ヒトの喉頭外科では、ドナー神経の断端を後輪状披裂筋(馬のCAD筋に相当)に直接埋め込む方法が、選択的喉頭再支配の標準術式になっています。直接移植は手技が速く、神経筋茎移植に比べて線維化のリスクが少ないとされています。本研究は、この考え方を臨床例に持ち込んだものです。
研究の概要
2014年から2016年にかけてGrosbois馬クリニックを受診し、飼い主が本術式を選択した17頭が対象です。安静時喉頭グレードII〜IVが対象で、グレードIV/IVの馬については反回喉頭神経を電気刺激して披裂軟骨に何らかの動きが観察された場合にのみ、機能するCAD筋線維が残っているとみなして対象に含めています。
内訳は牝4頭、牡3頭、去勢10頭。品種はフランス温血種7頭、サラブレッド6頭、アングロアラブ2頭、オランダ温血種1頭、スタンダードブレッド1頭で、2〜11歳。用途は障害飛越7頭、競走7頭、総合馬術3頭でした。
術式は、第1または第2頸神経を萎縮した左CAD筋にトンネル状に通して直接移植するもので、同側のレーザー声帯切除術が併用されています(片側7頭、両側10頭)。術後の評価には、前回紹介した翼孔での第1頸神経の直接針刺激と、術前後の運動時内視鏡が用いられました。運動時のグレードは、Rakestrawらの4段階分類を改変したもの(A:完全外転、B:部分外転、C:安静時より外転が少ない、D:声門裂の正中線を越えて虚脱)で、最高ストライド頻度時の映像を盲検で判定しています。
結果
手術は17頭すべてで、術式に関連した合併症なく完了しました。平均手術時間は94分(SD 23分、範囲70〜150分)で、最初の2例以降は明らかに短縮しています。移植に用いた神経は17頭中15頭で第1頸神経の主枝、2頭で第2頸神経の主枝でした。使用した枝の本数は、1本が4頭、2本が7頭、3本が6頭です。
神経刺激では、検査した12頭中11頭が陽性で、明瞭な攣縮とともに左披裂軟骨の準最大から最大の外転が観察されました。検査時期は術後4か月(1頭)、5か月(2頭)、6か月(1頭)、9か月(3頭)、12か月(4頭)です。陰性だった1頭は、この改良術式を行った最初の症例でした。
安静時グレードは、改善5頭、不変6頭、悪化5頭と分かれています。一方、運動時内視鏡では、2グレード改善が5頭、1グレード改善が4頭、不変が4頭、1グレード悪化が1頭でした(術前後とも実施できた14頭)。
注目すべきは披裂軟骨の安定性です。術前は16頭中13頭で運動時に左披裂軟骨が不安定でしたが、術後12か月では9頭中1頭のみでした。ただし12か月時点で9頭中7頭は準最大外転のグレードCにとどまっており、うち5頭では外転の程度が安静時と同程度(Dixon外転グレード4)でした。
合併症は、2頭に術後10日以内の漿液腫と部分的な創離開が生じ、4〜6日の入院延長と内科的処置で消失しています。全頭が術後6週で調教に復帰し、6か月時点で本来の用途に使用されていました。
飼い主アンケートでは、17頭中14頭で報告されていた呼吸音が完全に消失しました。1頭は6か月時点で呼吸音と中等度の運動不耐が続きましたが、8か月時点では出走可能となり、運動時内視鏡でも左披裂軟骨は安定(グレードC・安定)していました。再支配が確認されなかった1頭は、術後12か月にわたり飲水時(採食時ではない)の嚥下障害を示しています。他の馬では嚥下障害や咳は一度も見られませんでした。1頭で12か月時点に軟口蓋不安定が認められましたが、これ以外の動的上部気道閉塞は、再支配されなかった1頭の披裂軟骨の不安定を除いて観察されていません。飼い主は全員が結果に満足したと回答しています。
限界としては、sham手術の対照群がないこと、12か月を超える追跡と客観的な競技成績のデータが得られていないことが挙げられています。
日高での意味
前回までの実験研究と違い、この報告は実際の患者馬の話です。読むうえで押さえたい数字が2つあります。ひとつは、外転そのものは9頭中7頭がグレードCどまりで、完全な左右対称にはならなかったという点です。もうひとつは、それでも運動時の披裂軟骨の「不安定」が術前13/16頭から術後1/9頭へ減り、17頭中14頭で呼吸音が消失したという点です。著者らは別の箇所で、喉頭形成術後の成績においては最大外転よりも披裂軟骨の安定性のほうが重要である可能性を指摘した先行研究にも触れています。外転角度の大きさだけを見て評価すると、この術式が何を改善しているのかを取り違える可能性がある、ということだと思います。
なお本論文で使われている運動時グレードA〜Dの分類は、次回紹介する Veterinary Surgery 2026年の論文でもそのまま用いられています。
感想
フランスのロシニョール獣医師らの報告であり、2026年の最新論文に続く、もう一つの物語の始まりですね。
成績もかなり向上していると思います。
これくらいの成績が出てくると実際に症例に試す価値が出てきます。
出典
Rossignol F, Brandenberger O, Perkins JD, Marie J-P, Mespoulhès-Rivière C, Ducharme NG. Modified first or second cervical nerve transplantation technique for the treatment of recurrent laryngeal neuropathy in horses. Equine Veterinary Journal. 2018;50:457–464. doi:10.1111/evj.12788
X(旧Twitter):@Steelma49143492
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