喉頭片麻痺への神経再支配:146頭の臨床データ


 今回ご紹介するのは、実験室から臨床に舞台が移ってからの報告です。Fultonらが2003年に Veterinary Clinics of North America: Equine Practice に寄せた総説で、著者らが神経筋茎移植を行った146頭の臨床成績がまとめられています。前回まで紹介したDucharmeらの実験研究から10数年後にあたります。

現在も標準治療とされる喉頭形成術(タイバック)について、著者らは成功率の報告が44%から87%まで大きくばらついていること、その理由が成功の定義の違いにあることを挙げています。また、文献上少なくとも16種類の有害事象が記録されており、最も多いのは嚥下時の飼料誤嚥に伴う咳である、と記載されています。喉頭の構造そのものを変えずに済む再支配が検討されてきた背景には、この合併症の問題があります。

研究の概要

対象はサラブレッド129頭、スタンダードブレッド10頭、ウォームブラッド7頭の計146頭です。術式は神経筋茎移植で、症例によっては左声帯切除術が併用されています。

サラブレッドは、術前に出走歴があるかどうかで2群に分けられました。グループA(出走歴あり)が63頭、グループB(出走歴なし)が66頭です。

結果

グループA(術前に出走歴あり・63頭)。安静時グレード3が39頭、グレード4が24頭、2〜6歳(平均3.2歳)でした。手術と無関係の理由で4頭が死亡・引退し、残る59頭のうち95%が術後1回以上出走しています。手術から初出走までの平均期間は、グレード3で7.5か月、グレード4で8.6か月でした。63頭の84%で再支配の所見(披裂軟骨の動き)が確認され、確認できた時期は最短4か月、最長9か月です。術後の平均出走回数は12.5回で、59頭中32頭(54%)が1勝以上を挙げています。

成績の評価には、着順に点数を割り振った総合成績ランクと獲得賞金が用いられました。総合成績ランクは59頭中34頭(58%)で改善し、中央値は術前9から術後13へ上がっています(p = 0.03)。総獲得賞金は31頭(53%)で増加し、中央値は4080ドルから8500ドルへ上がりましたが、こちらは有意差には至っていません。出走あたりの成績ランクと出走あたりの賞金も、それぞれ34頭(58%)で改善したものの、有意差はありませんでした。重症度別に見ると、成績向上・賞金増加はグレード3で47%・47%、グレード4で65%・60%でした。

また、術後に同距離以上で出走した馬が53頭(84%)あり、そのうち同じ距離で術前後とも勝った20頭を比較すると、18頭(90%)が術後に自己ベストを更新していたと記載されています。

グループB(術前に出走歴なし・66頭)。グレード3が19頭、グレード4が47頭、1〜3歳(平均22か月)でした。66頭中39頭(60%)が1回以上出走しています。初出走までの平均期間はグレード3で14.7か月、グレード4で12.6か月と長めですが、これは18か月齢で手術を受けた馬が多く、3歳になるまで出走しなかったためと説明されています。76%で再支配の所見が確認され、確認時期は同じく4〜9か月でした。初出走時の平均年齢は3.1歳、平均出走回数は10.6回です。オーストラリアの全国平均と比較すると、3歳時の出走あたり賞金は2822ドルで、全国平均の1425ドルを上回っていました。

スタンダードブレッド10頭は全頭がグレード4かつ出走歴ありで、6頭が術後に出走しています。初出走までの平均は8.5か月で、6頭中3頭が術前より多くの賞金を得ました。ウォームブラッド7頭では5頭が術前より高いレベルで競技しており、うち1頭は術時12歳、罹患期間が4年以上だったと記載されています。

合併症としては、切開部の漿液腫とそれに伴う感染が挙げられていますが、感染を起こした馬でも再支配は成功しており、この合併症が成功を必ずしも妨げるわけではないとされています。ほかに回復直後の喉頭痙攣1頭、大きな血腫1頭が報告されています。

著者らは、再支配が失敗する原因として、ペディクルがCAD筋から抜けてしまうこと、神経に過度の緊張がかかること(神経の8%の伸展で血流が障害され、10%を超えると微小循環が完全に停止すると引用されています)、嚥下時の喉頭の前後移動、そして神経細胞体の死を挙げています。

また、グループAでは84%に再支配が確認されたのに成績向上は58%にとどまった点について、再支配が成功しても最大運動時の外転を維持できるだけのCAD筋の再生が常に得られるわけではない、と述べています。

日高での意味

この論文で日高の文脈にいちばん近いのは、グループBの数字です。術前に出走歴のない1〜3歳(平均22か月齢)の馬で、初出走までにグレード3で14.7か月、グレード4で12.6か月かかっています。前回までの実験研究では「再支配されるか」が問われていましたが、育成の現場で問われるのは「いつ走れるか」です。再支配の所見が出るのが術後4〜9か月、そこから調教を積んで初出走まで、という時間の見積もりは、術式を検討する段階で押さえておく必要があります。ただし、これは2003年時点の神経筋茎移植の成績であり、現在の術式にそのまま当てはまるものではありません。また賞金の数字は当時のオーストラリアの相場です。

感想

かなりいい成績が臨床例の中で出てきた論文です。
かなり多くの数について術後の成績が述べられており、その成績についても十分に期待できるものだと感じています。


出典
Fulton IC, Stick JA, Derksen FJ. Laryngeal reinnervation in the horse. Veterinary Clinics of North America: Equine Practice. 2003;19:189–208. doi:10.1016/S0749-0739(02)00073-1


X(旧Twitter):@Steelma49143492

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