麻痺した披裂軟骨を動かす試み(2)── 神経の断端を筋に埋め込む

 


今回ご紹介するのは、Ducharmeらの3部作の第2報です。前回の神経筋茎移植では筋片ごと移していましたが、今回はもっと単純に、切断した神経の断端そのものを麻痺した背側輪状披裂筋(CAD筋)に埋め込んだらどうなるかを見た予備研究です。1989年の *Canadian Journal of Veterinary Research* に掲載されています。

研究の概要


対象はポニー6頭です。第2頸神経を切断し、その断端を左CAD筋に入れたスリットに埋め込んで、5-0ポリプロピレン1針で神経上膜と筋外膜を縫合しています。同じ手術のなかで左反回喉頭神経も切断されました。術直後は6頭とも完全な左喉頭片麻痺を示しています。

評価は2通りで行われました。ひとつは月1回の内視鏡による主観的な観察、もうひとつは声門裂(rima glottidis)の断面積を左右それぞれ画像上で測る定量評価です。声門裂の画像は内視鏡と喉頭の距離によって大きさが変わるため、正中の背側点と腹側点の長さで補正し、左右の面積比を用いる工夫がなされています。

結果


内視鏡では、術後6か月の時点で6頭中4頭に左披裂軟骨の部分的な外転が主観的に認められました。

一方で、定量評価はこれと一致しませんでした。声門裂の面積は術直後の1週間で平均38%2455%)減少し、これは術前と比べて統計学的に有意でした。しかしその後、術直後から6か月までの間に有意な変化は認められていません。つまり、内視鏡で「動いて見える」ようになった馬でも、声門裂の開き自体は術直後から広がっていなかったということになります。

剖検では、左CAD筋は右と比べて2455%重量が減少しており、部分的な萎縮にとどまっていました。組織学的には、右(無処置側)はI型・II型線維がほぼランダムに混じるチェッカーボード様の正常な像でしたが、手術側はいずれも著明な筋線維萎縮を示し、多くの線維が横断面で毛羽立った(floccular)外観を呈していました。線維性組織の肥厚も見られましたが、著者らはこれをコラーゲンの絶対的な増加というより凝集によるものと考えています。そのなかに、周囲の線維に見られる「虫食い様(moth-eaten)」の性状を持たない大型線維のクラスターが散在していました。

著者らは、全頭で何らかの神経移入(neurotization)の所見は得られたものの、外転の回復はわずかであり、内視鏡で見える披裂軟骨の動き・声門裂の実測面積・組織所見の三者の相関は乏しかった、と結論しています。

日高での意味


この論文で押さえておきたいのは、評価方法によって「成功」の判定が変わってしまうという点です。同じ6頭を、内視鏡で主観的に見れば4頭が改善、声門裂の面積で測れば改善なし、という結果になっています。喉頭の手術の成績を読むときには、何をもって成功としているかを確認する必要がある、ということを最初期の論文が身をもって示した格好です。この問題意識が、のちに運動時内視鏡や左右角度比(LRQ)といった客観的な指標に発展していきます。

感想


なかなか厳しい結果の論文です。とても臨床的に良い結果とはならず、悲しみが深い結果だと思います。このような厳しい結果も論文として公表し、さらに研究を進めるとは。

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出典**
Ducharme NG, Horney FD, Hulland TJ, Partlow GD, Schnurr D, Zutrauen K. Attempts to Restore Abduction of the Paralyzed Equine Arytenoid Cartilage II. Nerve Implantation (Pilot Study). *Canadian Journal of Veterinary Research*. 1989;53:210–215.

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