鼻まがり矯正手術の長期予後:執刀医と飼い主への調査( Vasco et al. 2026)

 今回ご紹介するのは、鼻まがり(Campylorrhinus lateralis)の外科的矯正を受けた馬の長期予後を、執刀獣医師と飼い主双方の視点から調査した研究です。Vasco氏らによる研究で、Equine Veterinary Education誌(2026年、オンライン先行公開)に掲載されています。

研究の概要

鼻まがりは稀な先天性の顎顔面奇形で、哺乳・採食・咀嚼・呼吸、さらには長期的な福祉にまで影響し得るとされています。矯正手術に関する報告はこれまでも複数ありますが、その多くは術式そのものと短期的な転帰に焦点を当てたものであり、飼い主の視点からみた長期的な成績についての情報はほとんどなかったと述べられています。本研究は、執刀獣医師向けと飼い主向けの2種類のウェブアンケートを用い、双方の回答が対になって得られた馬9頭を対象に、機能的転帰・整容的評価・術後合併症・福祉に関する認識を調査したものです。

対象馬は9頭(牝7頭・牡2頭)、手術時年齢は平均9±2.9か月(中央値8か月)で、アメリカンクォーターホースとサラブレッドが各3頭と最多だったと報告されています。獣医師による診断時点での重症度は、全頭が「重度」(4頭)または「最重度」(5頭)に分類されており、飼い主全員が術前の呼吸困難を報告、うち1頭は哺乳が、3頭は採食(採草)が正常にできなかったとされています。全頭がSchumacher et al.(2008)の術式(上顎骨・切歯骨・鼻骨の骨切り・整復・内固定を1回の麻酔下でまとめて行い、鼻中隔を広範に切除する)に準じた単一段階の術式で矯正され、9頭中5頭は凹側の骨欠損に肋骨移植を、3頭は鼻翼皺襞切除を併用したと記載されています。

術後合併症としては、鼻骨固定プレート設置部の感染が最も多く(9頭中6頭)、そのほか一過性の発熱(3頭)、口腔内縫合部の離開(3頭)、上下顎の咬合異常(クラス3咬合、3頭)、口鼻瘻孔の形成(2頭)などが報告されています。9頭中4頭には長期的に問題となる合併症が残存し、そのうち3頭は永続的な咬合異常、1頭は気管切開部の狭窄(成長とともに解消)だったとされています。

一方、機能面・整容面の長期成績は良好で、9頭中7頭が意図していた用途(乗馬・繁殖・競技等)に復帰できたと報告されています(残る2頭は、調査時点で若齢のため未評価だった例と、鼻まがりとは無関係とされる疾患により復帰できなかった例)。安静時に良好な呼吸ができていたと回答した飼い主は9頭中8頭に上り、全頭が正常に採食・咀嚼でき体調を維持できたとされています。整容的な結果についても、飼い主全員が満足(「非常に満足」5頭、「満足」2頭、「どちらでもない」1頭)と回答し、不満と回答した例はなかったとのことです。さらに、全飼い主が「手術によって馬の寿命が延びた」「福祉・快適性が向上した」と回答し、同様の症例に再び同じ手術を受けさせるかとの問いにも9頭中8頭が「受けさせる」と回答、安楽死や治療見送りを選ぶとした飼い主は1頭もいなかったと報告されています。

著者らは、鼻まがりの外科的矯正について、咀嚼・呼吸機能の改善を目的とした「救済的選択肢」と位置づけたうえで、術後合併症のリスクは相応にある(多くは管理可能)ものの、生涯にわたる咬合異常により専門的な歯科管理を要するリスクも中程度存在すると考察しています。それでもなお、飼い主の視点からみた機能的・整容的な満足度は高く、重度〜最重度の鼻まがりであっても、手術によって競技・繁殖・伴侶馬としての生活の質を確保できる可能性を示す結果だと結論づけています。

日高での意味

これまでご紹介してきたSapper et al. 2021・Schumacher et al. 2008は、いずれも手術直後から術後数か月程度の短期経過を報告したものでした。本研究は、実際に手術を受けた馬のその後を、飼い主の視点も含めて長期的に調査した点が特徴です。重度〜最重度の鼻まがりであっても、9頭中7頭が意図した用途に復帰し、飼い主全員が機能面・整容面の結果に満足し、手術が寿命や福祉の向上につながったと回答している点は、生産者・馬主が手術という選択肢を検討する際の材料になり得ると考えられます。一方で、4頭に長期的な合併症(咬合異常や気管切開部の狭窄)が残った点も、事前の説明で踏まえておくべき情報と考えられます。

感想

鼻曲がりは1年間に5頭前後の相談を受ける先天的な奇形。
こんかいの報告では比較的、月齢が進んだ馬での予後について記載されている。
それでも競走馬以外の予後については満足のいく結果であったようだ。
私の診療対象であるサラブレッドの仔馬に限定すると、どのような未来が想定できるのか。大変難しい。それでも方法として確立しているし、私はすでに執刀したことのある手術だ。
馬主が望むのであれば治療は可能だと考えている。
もちろん、手術することが正しい選択とは言えない場合も十分にある。そのため、手術前によく未来を想定しておくのは大切なことだろう。


出典:Vasco H, Cerqueira de Melo Vasco AC, Schumacher J, Easley J. Long-term outcome of horses undergoing surgical correction of wry nose (Campylorrhinus lateralis): A retrospective study. Equine Vet Educ. 2026;00:1–8. DOI: 10.1111/eve.70101



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