蹄骨骨折 Type II & Type III

はじめに

蹄骨骨折は比較的稀な骨折症例だと記載されていて、
私自身もそれほど蹄骨骨折症例の経験は多くありません。

近年では蹄骨骨折に対して、hoof castで治療を行なっています。
しかし、育成馬を主に治療対象としている先生から、蹄骨骨折症例の予後が悪く、内固定手術を実施することはできないだろうかとの相談がありました。

これまでに蹄骨骨折に対する内固定手術実施経験はありません。
そのため、蹄骨骨折の内固定手術について勉強してみたいと思います。

今回はEquine Fractureという馬の骨折について記載された教科書で蹄骨骨折について勉強しました。


蹄骨骨折 


蹄骨骨折にはTypeⅠからTypeⅦまで分類されています。
このうち内固定手術の適応例となるのはTypeⅡ及びTypeⅢになります。


Type Ⅱ

蹄関節まで骨折線が至る傍正中蹄骨骨折です。
蹄骨骨折の中で最も一般的だと報告されています。
螺子による内固定手術で治療可能であり、ヨーロッパでは積極的に手術が選択されていると記載されています。
内固定手術はTypeⅢの蹄骨骨折に比較して難しいとされています。
これは、骨折線が斜めに入っており、骨折線に対して垂直に螺子を挿入するのが難しいためです。

bar shoeによる保存治療も可能です。
内固定手術を実施した場合にもbar shoeを装蹄することが推奨されています。

若齢馬(1-2歳馬)では保存療法により1年後に半数の馬で治癒したことが報告されています。これに対して3歳以上の古馬では、予後は良好ではないと報告されています。


Type Ⅲ

蹄関節まで骨折線が至る正中蹄骨骨折です。
臨床症状はTypeⅡとほぼ同等だと記載されています。
このTypeの骨折の発生率は低く、蹄骨骨折の3-4%程度であることが示されています。
TypeⅢの蹄骨骨折では内固定手術が推奨されています。
神経切除/切断術を実施しても骨折による疼痛は指神経の支配領域を超えるため、この方法は良い結果を得ることができない。


蹄骨骨折に対する内固定手術

適応症例;

発症から5日以内、開放骨折ではないTypeⅡもしくTypeⅢの蹄骨骨折

術式;

1本の螺子での内固定手術

目的;

骨折部の安定性の向上、関節面のギャップの減少

これまでにも内固定手術が最も適切な選択肢なのか議論がある。
しかしながら、内固定手術により良好な予後が得られた報告があるのも事実である。

3歳以上の古馬におけるTypeⅢの蹄骨骨折は運動復帰までの回復期を短縮するために内固定手術が推奨される。


手術手技

1. 手術前日に削蹄、洗浄
2. 手術前日に球節までの毛がり
3. 手術前日から消毒薬を浸したバンテージで蹄を覆う
4. 手術前に蹄にマーカーを付けX-ray;螺子位置の決定
5. 螺子は関節面と蹄底面の中心
6. 直径10mmの円鋸で蹄壁に造孔
7. 事前に蹄壁から蹄骨までの距離を測定
8. 蹄骨はドーム型のため、X-rayでの蹄骨の幅よりも螺子の長さは短くなる
9. ドリリングは関節面と並行に
10. 4.5mmもしくは5.5mmの皮質骨螺子を使用
11. ラグスクリュー法で螺子挿入
12. デプスケージでの測定より5mm短い螺子を使用
13. カウンターシンクは最小限
14. 関節面のずれがX-rayで確認できる場合、関節鏡で関節面を確認し整復


手術後の治療

手術前1時間から抗生剤を投与し、手術後3-5日間の抗生剤投与を行う。
鎮痛剤は多くの症例で必要ではないが、もし、必要ならばフェニルブタゾンを低容量で使用しても良い。
回復期間は6ヶ月とされている。

手術後は術創が正常な肉芽組織で覆われるまでバンテージで清潔に保たれる必要がある。


手術の合併症

術創からの持続的な排膿、螺子の感染、骨髄炎、骨折が癒合しない、そして、変形性関節症が合併症として挙げられる。


感想

蹄骨骨折に対する内固定手術について勉強しました。
注目すべき点としては、内固定手術は蹄骨骨折発症から5日以内に実施すべきである点です。5日以内に手術を実施するには、素早い診断が必要ですし、手術を行う側としては、手術依頼を受けてから死体で練習するのではなく、症例に遭遇する前に手術手技を反復練習しておく必要があると思います。


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