近位指/趾骨間関節の剥離骨折  (AAEP 2018)

まとめ

この研究報告では、近位指/趾骨間関節の剥離骨折を関節鏡手術により摘出された馬では、
その競走成績が兄弟馬に比較し大きな差が認められなかったことを示しています。
この結果から近位指/趾骨間関節の剥離骨折に対する摘出手術は競走成績に大きな影響を与えなかったとしています。

はじめに

近位指/趾間関節の剥離骨折に遭遇することは非常に稀です。
馬関節鏡手術の教科書には、この関節の関節鏡手術の方法が記載されていますが、
私自身の経験ではこれまでの近位指/趾間関節の関節鏡手術は3例のみだったと記憶しています。

今回、紹介する"The Horse"の記事では2018年のAAEPで発表された研究報告から、この近位指/趾骨間関節の剥離骨片除去手術を受けた馬の手術後の成績について記載されています。

一部和訳

今回の記事では、サラブレッド種競走馬について近位指/趾骨間関節の剥離骨折の手術後成績を調査しています。
この調査では56例の近位指/趾骨間関節剥離骨折に対して関節鏡手術を実施しています。
56例のうち39例がサラブレッド種競走馬でした。
この39例の母系兄弟169例について比較対象として競走成績を調査しています。

今回の調査から下記の結果が得られています。

・今回の症例の90.3%は後肢、9.7%が前肢。
・骨片の大きさは平均で9.7mmであった(3-28mm)。
・症例の63%では捻挫骨折であった
                   (靭帯/腱により骨折片が固着していた)。
・3頭で手術による合併症が認められた
1頭は感染性関節炎を発症し、1頭は変形性関節炎が進行し、関節固定術を実施した。もう1頭は、対側肢で同様の剥離骨折が認められ、手術を実施した。
・2歳時、3歳時、および競走馬キャリアの全体においても出走回数、獲得賞金、1回出走あたりの獲得賞金で手術実施群と対照群において優位な差は認められなかった。

予後は関節における損傷に影響を受けることが予測される。
より関節へのダメージが大きければ、より予後が悪いと予測できる。

感想

この研究は、稀な疾患である近位指/趾骨間関節剥離骨折の症例をまとめた研究報告であり、非常に有用な情報であると思います。

これまでに私の経験は少なく、この部位の剥離骨折に対して関節鏡手術を実施した症例の予後は良くないと考えていました。
私がこのように考えていたのは、
1つには手術時にすでに関節周囲に骨増生を伴う症例ばかりで、手術後に変形性関節症になるリスクが高いため。
そして、もう1つには、出走前(1歳馬)でこのような所見が認められた症例でのみ手術経験があったためです。

今回の調査報告の結果から、手術実施馬の競走成績は対照群と比較し差が認められなかったことが明らかになりました。

この結果から、近位指/趾骨間関節の剥離骨折を早期に発見することができれば予後は悪くないと考えています。

今後は近位指/趾骨間関節についても積極的にX-ray撮影を実施し、早期発見に努めたいと思います。








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