はじめに
牛の潜在精巣の去勢は年に数頭来院します。これまでに馬の潜在精巣については経験もあり、勉強もしてきましたが、
牛の潜在精巣についてはまだ、あまり理解していません。
今回、牛の潜在精巣について日本語論文を見つけたため、
この論文から牛の潜在精巣の去勢方法について勉強します。
今回、読んだ論文は
淡路島産黒毛和種子牛における潜在精巣の発生状況と摘出手術
田中茂廣ら 2011 家畜診療 58号3巻 151-になります。
潜在精巣の発生率
この論文では過去24年間の淡路島内での黒毛和種子牛の潜在精巣発生率は0.3%(310/104837頭)であったと報告している。このうち、片側性が91.9%、両側性が9.1%であり、片側性のうち左側が78.1%であったと報告しています。この発生率はこれまでのデンマーク赤牛での0.7%、ホルスタイン種での1.25%(85/6818頭)およびF1種での0.31%(24/7772頭)とほぼ同等であることが考察で示されています。
牛では潜在精巣は劣性遺伝であると報告されているようです。
このような考察から、おそらく私が働くエリアにおいてもほぼ同等の発生率で潜在精巣が発生していると考えられます。
手術手技
この論文では腹膜ひだアプローチ法という潜在精巣へのアプローチ方法で潜在精巣を探し出し、摘出を行なっています。この方法を用いることで摘出率は96.7%(175/181)であったことが示されています。
潜在精巣の潜在部位は腹腔内74.6%(135)、鼠径部22.1%(40)、不明3.3% (6)であったことも併記されています。
腹膜ひだアプローチは精巣の発生下降機序から腎臓後部の腹膜は、ひだ状になり内鼠径輪に達していることを利用し、腹腔内潜在精巣を腎臓からこの腹膜ひだをたどることで短時間で潜在精巣を発見、摘出できたと報告しています。
実際の手順は
1. 手術実施前日夕方より絶食
2. 2%キシラジン1.0ml/100kgで仰臥保定
3. 皮下に精巣がないか丁寧な触診で確認
4. 全乳頭から前外方へ斜めに12-15cm切開し開腹
5. 術創から手を入れて潜在精巣側の腎臓を触知
6. 腎臓後部の腹膜のたるみを確認
7. 腹膜ひだを指ではさみながらゆっくりと後方にたどる
8. 腹腔内精巣は腹膜ひだの延長上に存在
9. 内鼠径輪で精索の一部を触知できる症例
→牽引で精巣を腹腔内に引き戻す
10. 創外に持ち出し結紮後、切除
となります。
腹膜ひだが内鼠径輪に達している/
腹腔内の検索を2-3回繰り返しても見つからない場合
→
腹腔内に挿入している手で恥骨前縁の腹壁を押し上げ、一方の手を陰嚢基部にあてがい両手で挟むように検索すると精巣を発見可能
摘出された精巣は正常な精巣の概ね1/3-1/4程度の大きさであり、中には小豆大の症例も認められたことが記載されており、丁寧な触診が重要であることがわかる。
感想
この論文では牛の潜在精巣へのアプローチ方法が詳細に記載されており、臨床獣医師にとって非常に有用な論文でした。このアプローチ方法を実際に使用し手術にあたりたいと考えています。また、この方法は馬においても有用かもしれません。ただ、競走馬での去勢のタイミングは牛と異なり、2−3才で実施することが多いため、牛での記載のようにうまく実施可能なのか明らかではありません。
開腹手術時にこっそりと触診しておきたいと思います。
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