馬;尺骨骨折 (Jacobs et al. 2017)

はじめに

今回、紹介する論文は馬の尺骨骨折に対してLocking Compression Plateを用いて内固定を実施した18例の症例報告になります。

私が働いているサラブレッド生産地では尺骨骨折は当歳、1歳で多く認められます。これらの馬では成馬に比較し体重が軽いこともあり、多くの症例はDCPで内固定を実施し、良好な治癒を得ることが可能となります。


成馬での尺骨骨折も稀に認められます。成馬では体重が重いことに加え、Type 4、もしくはType 5といった複数の骨折線が認められるタイプが多く、内固定が難しいと考えています。このような症例ではDCPではなく、LCPを用いて内固定を実施するべきかもしれません。


今回は18頭の尺骨骨折症例に対してLCPを用いて内固定手術を行った症例報告から勉強します。


今回、ご紹介する論文は、


Jacobs, C. C., Levine, D. G., & Richardson, D. W. (2017). Use of locking compression plates in ulnar fractures of 18 horses. Veterinary surgery46(2), 242-248.


になります。


まず、Abstractを和訳します。


Abstract



目的

様々なタイプの馬の尺骨骨折に対してLCPを用いて内固定手術を実施した際の結果、臨床所見、そして合併症について明らかにすること

研究デザイン

回顧的調査

対象動物

来院馬 (18頭)

方法

少なくとも1枚のLCPを用いて内固定手術を実施した尺骨骨折発症馬の診療記録、X-ray画像および追跡調査を確認した。18頭のうち15頭は尺骨骨折のみであり、3頭は尺骨骨折に加え橈骨近位骨折も併発していた。

結果

18頭全ての症例で手術後、無事に退院した。合併症は5頭で認められた。術創感染(n=4, 22%)、インプラント感染(n=2, 11%)、そして疝痛(n=1, 6%)。追跡調査は全ての馬で手術後13-120ヶ月まで追跡することができた。15頭(83%)は問題なく、目的の使役に供されていた。3頭(17%)は安楽殺となった。1頭は手術の合併症が原因となり安楽殺処置となった。

結論

LCPは馬の尺骨骨折に対して実行可能な治療方法である。そしてLCPを用いて内固定を行ったほとんどの馬で良好な治癒を得ることができた。

感想


この症例報告では、LCPを用いて尺骨骨折を治療し、良好な結果を得ていました。

治癒した症例には成馬のType 4 、Type 5の骨折例も含まれています。1枚のLCPで強度が十分でない症例では通常の掌側のプレートに加え、尺骨の外側にもプレートを載せるダブルプレートでの内固定を実施し、良好な治癒を得ています。

体重の重い成馬、骨折のタイプによってはダブルプレートを実施することも検討すべきだと再確認しました。

LCPを尺骨骨折に用いる場合の注意点としては、LCPでは螺子角度が制限されるため、尺骨の中心に螺子が挿入できないことや橈骨の側面を螺子が削ることなどが挙げられます。


特に、尺骨の遠位に螺子を挿入する場合、橈骨の側面の皮質骨を損傷してしまい、麻酔覚醒時に橈骨骨折を起こした症例が他の論文では報告されており、注意が必要だと考えています。

また、1歳馬で尺骨骨折に対して内固定を実施した症例では、プレート抜去を行わずに競走馬として出走可能であったことも報告されています。






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