馬の脛骨近位骨嚢胞(ボーンシスト)(Santschi et al. 2020)

はじめに


今回は脛骨近位の骨嚢胞(ボーンシスト)についての論文を紹介したいと思います。

脛骨近位の骨嚢胞に遭遇することは稀であり、私自身もこれまでに数例のみしか経験がありません。


しかし、近年、大腿骨骨嚢胞の症例は増加しつつあるように思います。脛骨近位骨嚢胞は大腿骨内側顆骨嚢胞の合併症としても発症することがあります。


また、跛行を呈さない1歳馬で発見されることもあるようです。


今回、ご紹介する論文は

Santschi, E. M., Whitman, J. L., Prichard, M. A., Lopes, M. A., Pigott, J. H., Brokken, M. T., ... & Juzwiak, J. S. (2020). Subchondral lucencies of the proximal tibia in 17 horses. Veterinary Surgery.
になります。


論文紹介


この論文の目的は、馬の脛骨近位における骨嚢胞(ボーンシスト)の治療とその治療成績について記すことだと記載されています。

この論文は実際の症例での回顧的調査です。
この論文では17例の脛骨近位骨嚢胞(ボーンシスト)が認められた馬を調査対象としています。

この論文では調査対象の医療記録およびX-ray画像の調査を実施しています。
追跡調査は可能な症例では検査およびX-ray診断の結果を入手し、また電話での追跡調査および出走記録についても調査しています。追跡調査の期間は中央値で20ヶ月だと記載されています(0-48ヶ月)

脛骨近位の骨嚢胞が跛行と関連していたのは17例中14例であったと記載されています。脛骨近位の骨嚢胞は11例では原発疾患であったが、6例では同側の大腿骨内側果骨嚢胞からの2次的な発生でした。

脛骨近位骨嚢胞が原発疾患であった仔馬1例は骨髄炎のため安楽殺となっています。1歳以下で脛骨近位骨嚢胞が原発疾患であった6例では運動制限のみが実施されました。跛行症状が認められなかった3例はいずれも運動制限により骨嚢胞のサイズが縮小したと記載されています。しかしながら、跛行症状が認められた3例では運動制限では跛行の軽減は認められませんでした。

1例の若齢馬では外科的掻爬術を実施したが、良化せず、安楽殺となりました。脛骨近位骨嚢胞が原発疾患であり、跛行を呈した3症例は螺子挿入術を実施され良化が認められたと記載されています。 2次的に脛骨近位骨嚢胞を示した5症例に対しても螺子挿入術が実施され、骨嚢胞のサイズ減少と跛行の軽減が認められました。

脛骨近位骨嚢胞が原発疾患であり、跛行を示さなかった3例の若齢馬では運動制限により骨嚢胞は治癒した。しかし、骨嚢胞が大きく跛行を示した症例では運動制限は良い結果を得ることができなかったと記載されています。

原発疾患および2次的疾患である脛骨近位骨嚢胞に対して螺子挿入術を実施した場合、X-ray画像での骨嚢胞サイズの縮小、跛行の軽減もしくは治癒が認められたと記載されています。

この論文の結論としては跛行を伴わない脛骨近位骨嚢胞は保存療法で良好な結果を得ることができた。跛行を伴う原発、もしくは二次的な脛骨近位骨嚢胞は跛行の改善のために螺子挿入術が必要であった。


感想

この論文では脛骨近位骨嚢胞の成績について記載されています。
この論文では、跛行を伴わない脛骨近位骨嚢胞は保存療法により治癒したことが報告されています。この結果から、1歳馬のレポジトリー でこの所見が認められ、その1歳馬に跛行が認められない場合、適切な処置が実施されれば予後は良好であることが期待できます。

しかしながら、跛行を伴う脛骨近位骨嚢胞では様子が異なります。跛行を伴う1歳馬の脛骨近位骨嚢胞の症例では保存療法では良好な予後を期待することは難しいようです。

注目すべき情報としては、原発性の脛骨近位骨嚢胞が17例中11例で認められている点です。私の経験では脛骨近位骨嚢胞はその多くが大腿骨内顆の骨嚢胞の続発症として認める症例でした。しかし、この論文の情報から原発性の近位骨嚢胞症例が多く認められることを学びました。

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