第三中手骨矢状稜遠位の骨軟骨病変(Wright & Minshall 2014)

はじめに

第三中手骨矢状稜遠位の骨軟骨病変は1歳馬のレポジトリーでは、背→掌方向の撮影で認められる所見の1つです。
この所見が引き起こす主な臨床症状は球節の腫脹になります。

米国のレポジトリーでは、前肢球節の屈曲外→内方向のX-ray画像を提出する必要があります。第三中手骨矢状稜遠位の骨軟骨病変はこの前肢球節の屈曲外→内方向のX-ray画像で的確に診断可能な所見なので、日本国内のレポジトリーでは診断できないケースもあると考えています。

臨床例の場合、屈曲外→内方向のX-ray撮影で発見・診断されることが多いと思います。


今日はこの第三中手骨矢状稜遠位の骨軟骨病変についての論文を紹介します。


紹介する論文は英国、Newmarketの馬病院からの報告で、

Wright, I. M., & Minshall, G. J. (2014). Identification and treatment of osteochondritis dissecans of the distal sagittal ridge of the third metacarpal bone. Equine veterinary journal, 46(5), 585-588.
になります。


論文のまとめ



この論文が発表される以前に第三中手骨矢状稜遠位でのOsteochondritis dissecans (OCD)についての報告はありませんでした。

そのため、この論文は、第三中手骨矢状稜遠位でのOCDについて、臨床症状、X-ray画像所見、そして関節鏡所見について記述し、さらにその治療成績について明らかにすることが目的であると記載されています。

この論文では英国、Newmarket、Newmarket Equine Hospitalでの2006年から2013年における診療記録およびX-ray画像を回顧的に調査しています。この論文では各症例について電話での追跡調査および競走成績調査を実施しています。


この調査の結果、16頭の跛行を示す症例で第三中手骨矢状稜遠位のOCD症例が調査対象となりました。16例中9例は片側、7例は両側でした。この論文では、Flex lateralでのX-ray撮影画像で全ての患肢 (23/23) 、背→掌側方向のX-ray撮影画像では23肢中21肢で病変の診断が可能であったと記載されています。


この論文では、球節を屈曲させた状態で関節鏡手術を実施することで、第三中手骨矢状稜遠位のOCD病変へのアプローチが可能であったと記載しています。そのため、この論文では、第三中手骨矢状稜遠位のOCDに対して関節鏡手術にて骨片の摘出、病変部のデブライドメントが可能であったと記載してあります。


この論文では1年以上の追跡調査が可能であった14例中13例が競走馬、競技馬として使役に復帰しており、そのうち、12例のサラブレッド競走馬のうち11例が競走馬として出走したと報告しています。


この論文では、第三中手骨/中足骨矢状稜近位の病変と異なり、矢状稜遠位のOCDは前肢で多く認められることが明らかとなりました。さらにこの第三中手骨矢状稜遠位のOCDは背→掌側方向のX-ray検査画像、屈曲外内像のX-ray検査画像でのみ診断可能であり、関節鏡手術での治療が可能であることが明らかとなりました。


この論文での結論としては、

・臨床獣医師は第三中手骨矢状稜遠位のOCDを診断するために必要なX-ray検査を実施し、この所見を見逃さないように注意すべきである。
・改良した球節背側への関節鏡手術により第三中手骨矢状稜遠位のOCDを治療することが可能である。
と報告しています。


感想


第三中手骨矢状稜の透亮像は背→掌側のX-ray検査では見逃すことが多い所見です。屈曲外内のX-ray検査で容易に診断することができます。ただし、前肢球節の屈曲外内方向でのX-ray検査はきれいな画像を得ることが難しいため注意が必要になります。

この所見を知っていれば、当歳から現役競走馬まで、球節のX-ray撮影を行う際に屈曲外内方向の撮影することでこの所見を見落とすことはなくなります。






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