馬 ;False Thoroughpin (Synoviocoeles) に対する腱鞘鏡手術 (Minshall & Wright 2012)

はじめに

馬のサラピン(Thoroughpin)は1歳馬をはじめ、2歳馬 、現役競走馬でも認められる臨床症状です。このサラピン (Thoroughpin) は 深屈腱腱鞘 (Tarsal Sheath; 正確にはlateral digital flexor tendon sheath) の腫脹を指しています。

通常のサラピン (Thoroughpin) では腱鞘液の増量に伴い、腱鞘の腫脹が認められます。
ところが中にはFalse Thoroughpin と呼ばれるものがあります。


Fales Thoroughpinの外見はThoroughpin に似ているけれど、実際には腱鞘液が増量し深屈腱腱鞘の腫脹が起こるわけではなく、深屈腱腱鞘の一部が破れ、腱鞘液が漏れ貯留した状態となります。

今回はこのようなFales Thoroughpin の症例に対して腱鞘鏡手術を実施し、その成績を示したMinshall & Wright の論文を紹介したいと思います。

今回、紹介するのは
Minshall, G. J., & Wright, I. M. (2012). Synoviocoeles associated with the tarsal sheath: Description of the lesion and treatment in 15 horses. Equine veterinary journal, 44(1), 71-75.
となります。

論文のまとめ


この論文の目的は、深屈腱腱鞘裂孔による臨床症状、超音波診断画像、そして関節鏡手術所見を示し、この所見を定義し、治療成績について記載することだと記載されています。

この論文では、Fales Thoroughpin と呼ばれる症状は深屈腱腱鞘の一部が破綻することにより引き起こされ、腱鞘の裂孔を広げることでこの症状を治療することができると仮説が立てられています。

この論文では腱鞘の破綻をSynoviocoeles と定義し、後肢の深屈腱腱鞘にSynoviovoelesが認められた症例をこの論文での調査対象としました。この論文では調査対象について医療記録、検査記録を回顧的に調査し、さらに症例の追跡調査も実施しています。

この論文での回顧的調査の結果、Synoviocoeles と診断・治療された症例は15例であった。15例はいずれも同様の治療を受け、15例中10例で臨床症状が改善し、元の使役に復帰することができたと報告しています。

これまでに後肢の深屈腱腱鞘の一部破綻とそれに伴う液体の貯留について正確な診断名が定義されていないことから、この論文ではこのような所見をSynoviocoelesと定義することが適切であると記載しています。
またこの論文では、Synoviocoeles に対する治療方法として内視鏡を用いて深屈腱腱鞘の裂孔の拡張を行い、15例中10例で良好な結果を得ることができたと報告しています。

この論文では、上記のような結果より、後肢の深屈腱周囲の液体貯留が認められる症例ではSynoviocoeles を疑う必要があり、治療方法として内視鏡手術が推奨されると記載しています。

感想


この論文は、Fales Thoroughpin について、その原因、診断方法、そして治療方法を示した素晴らしい論文です。
これまでサラピン (Thoroughpin) はステロイド投与を選択される症例が多く、症状の改善が認められない場合でも手術を選択されることは少なかったように思います。
また、かつてはサラピン (Thoroughpin) と Fales Thoroughpin を識別することは個人的には難しいと考えていましたが、この論文を読んだことで超音波で識別することができました。
さらに治療方法として手術方法、予後が提示されているため、非常に参考になります。

先日、この Synoviocoeles の症例を経験し、この論文で記載されているように、内視鏡で裂孔の拡張手術を実施しました。この症例に対して適切な手術を実施できたのは間違いなくこの論文のおかげです。

このような素晴らしい論文に深く感謝です。

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