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繋関節の亜脱臼は防げるか? 大腿骨遠位用LCPによる球節・繋関節の二関節固定26頭
繋靱帯装置が外傷性に破綻したサラブレッドで、繋関節(近位指節間関節)の亜脱臼リスクがあると判断された症例に、球節と繋関節を同時に固定した報告を紹介します。Orozco Lopez氏らによる研究で、*Veterinary Surgery* 2025年54巻3号439-452頁に掲載されています。
何を検討した研究か
球節固定術の後に繋関節が亜脱臼することは、以前から指摘されてきました。そこで、亜脱臼リスクのある症例にはあらかじめ繋関節まで固定範囲に含める「二関節固定」を行い、その転帰を後ろ向きに報告したものです。2020〜2024年の3施設で、大腿骨遠位用ロッキングコンプレッションプレート(LCP-DFP)を使った26頭が対象です。
**症例**
- 牝9頭、せん馬14頭、牡3頭。年齢中央値4歳(2〜7歳)、体重中央値499kg
- 損傷:内外側の近位種子骨粉砕骨折16頭、遠位種子骨靱帯断裂7頭、混在3頭
- 受傷から手術まで:中央値48時間(6〜96時間)
**術式**
- LCP-DFPを球節部で約195度に成形(9〜13穴)
- 背側の長い切開から進入し、軟骨をソーで除去、軟骨下骨に格子状の穿孔
- 掌側テンションバンドとして1.7mmステンレスケーブルを全例に使用
- 繋関節を跨ぐ経関節スクリューは26頭中14頭(2本12頭、1本2頭)
- 手術時間の中央値155分、麻酔時間の中央値200分
- 術後は全例でハーフリムのファイバーグラスキャスト(中間位)を平均9±4.2日(1〜17日)装着し、その後は装具ブーツまたはカフ付き蹄鉄
- 予防的局所抗菌療法は、静脈内局所灌流(アミカシン19頭、メロペネム7頭)に加え、アミカシン含浸PMMA、アミカシン含浸硫酸カルシウム、セファゾリン洗浄を併用
結果
**繋関節の亜脱臼を生じた馬はいませんでした。**
これが本研究の中心的な所見です。一方で短期合併症は26頭中20頭(76.9%)に発生しています。
- 支持肢蹄葉炎7頭(26.9%)、創からの排液7頭
- インプラント感染・骨髄炎5頭
- 蹄関節亜脱臼3頭、蹄の無血管性壊死3頭
- 抗菌薬関連大腸炎3頭、創離開2頭、大結腸の閉塞・変位2頭
- 盲腸破裂、顔面神経麻痺、指屈腱鞘の敗血症性腱鞘炎、急性腎障害が各1頭
**生存**
- 退院:14頭(53.8%)、退院までの日数の中央値30日(14〜230日)
- 180日超の長期生存:13頭(50%)、生存期間の中央値759日(180〜880日)
- 執筆時点で12頭(46.15%)が生存し、鎮痛・抗炎症薬なしで放牧地で快適に過ごしている
- 入院中の安楽死12頭(術後中央値22日)。主因はインプラント感染・骨髄炎5頭、支持肢蹄葉炎の合併症、腹膜炎、無血管性壊死など
- 別の1頭は術後15か月で、対側の繋関節OAに続発した後肢跛行のため安楽死
**骨性架橋(X線)**
- 球節:全例、中央値169日(56〜430日)
- 繋関節:5頭のみ、中央値224日(72〜430日)。経関節スクリューを追加した例でも癒合は遅く、著明な骨増生を伴った
- 長期生存例では全例で繋関節のOAと関節周囲骨増生が進行
著者らの結論と限界
二関節固定により繋関節の亜脱臼は生じなかったものの、予後は高い合併症発生率に左右される、と結論されています。限界として、後ろ向き・多施設で記録にばらつきがあること、症例数が限られること、球節単独固定の対照群がないこと、施設間で術式・術後管理が異なること、術前の掌側構造・指部血流の軟部組織画像評価がないこと、安楽死例の剖検がないこと、繋関節の軟骨掻爬が限定的であることが挙げられています。
日高での意味
繋関節の亜脱臼は、球節固定術による救命が失敗する主要因の一つです。本研究は、繋関節まで含めて固定すれば少なくともその亜脱臼は回避できたことを示しています。ただし同時に、長期生存は半数にとどまり、支持肢蹄葉炎が26.9%、インプラント感染・骨髄炎が5頭という数字が並びます。「一つの失敗要因を潰しても、全体の予後は合併症に規定される」という構図として読めます。
生産者への説明では、退院率53.8%、長期生存50%に加え、入院期間が中央値30日で最長230日に及ぶ点も伝える材料になり得ます。なお対照群がないため、球節単独固定より優れているかは本研究からは判断できません。
感想
この手術はかなりスキルを必要とする手術です。球節関節固定術の大きな合併症の1つであるPIPの脱臼を防ぐためにこのような手術となるわけですが、それにしても成功率が低い手術であることがよくわかります。合併症の発症も多く、手術を実施する前には畜主、獣医がよく話し合ってから実施しべきですね。
この二関節固定術は私は1例のみの経験ですが、時間を要し、かつ難易度の高い手術となりました。今回の論文とは別のプレートを用いて実施し、手術した馬は現在は生存しています。
今後、目的としている役割を果たしてもらえるようにサポートを続けたいと考えています。
このような手術を自信をもって進められるように今後も研鑽いたします。
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**出典**:Orozco Lopez D, Garcia-López JM, Carpenter R, Bras JJ, Richardson DW, Ortved KF. Treatment of traumatic disruption of the suspensory apparatus in Thoroughbred racehorses at risk of proximal interphalangeal joint subluxation using a locking compression-distal femur plate for double arthrodesis. Vet Surg. 2025;54(3):439–452. DOI: 10.1111/vsu.14219(PMID: 39895425 / PMCID: PMC11947293)
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北海道で働く大動物獣医師
X:[@Steelma49143492](https://x.com/Steelma49143492)
関連記事:
LCPを用いた球節関節固定術 (Carpenter et al. 2008)
https://horserepositorystudy.blogspot.com/2026/09/lcpcarpenter-et-al-2008.html
変形性関節症での球節の関節固定手術(Chapman et al. 2019)
https://horserepositorystudy.blogspot.com/2026/09/chapman-et-al-2019.html
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