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今回ご紹介するのは、内科的治療に反応しない球節(中手指節関節・中足趾節関節)の変形性関節症に対して、ロッキングコンプレッションプレート(LCP)と金属製テンションバンドを用いた関節固定術を行った17頭の成績を報告した論文です。Chapman氏、Richardson氏、Ortved氏による研究で、*Veterinary Surgery*誌(2019年、48巻6号1-8頁)に掲載されています。
### 研究の概要
変形性関節症(OA)は馬とヒトの両方で最も高頻度にみられる運動器疾患とされ、2013年の調査では、保険加入馬におけるMCP/MTP関節のOAが全関節疾患の28%を占めていたと報告されています。関節軟骨は治癒能力に乏しく、外傷がOA発症の契機となることが多いとされ、OAは進行性で、現時点では有効な疾患修飾治療がないと述べられています。薬物療法は疼痛管理に有用な場合が多いものの、長期的な症状緩和には促進的癒着(facilitated ankylosis)や外科的関節固定術が必要となることがあるとされています。MCP/MTP関節固定術は、繋靱帯装置の外傷性破綻(TDSA)に対するゴールドスタンダードの術式として位置づけられており、TDSAに対する予後は「guarded to fair」、生存率25-67%と報告されていますが、OAに対して本術式(LCP+テンションバンドを用いた改変法)を適用した場合の転帰はこれまで報告がなかったとされています。
著者らの目的は、LCPと金属製テンションバンドを用いたMCP/MTP関節固定術の術式を記述し、OAに対して本法で治療された馬の転帰を報告することとされています。研究デザインは後ろ向き症例集積で、2004年から2017年までに球節のOAに対して関節固定術が施行された17頭(サラブレッド8頭、温血種8頭、アラブ種1頭)が対象とされています。平均年齢8.4歳(範囲4-22歳)、平均体重528kg(範囲434-623kg)、雌10頭・去勢していない雄3頭・去勢馬4頭とされ、放射線検査(15頭)、CT(2頭)、MRI(1頭)によって全頭でOAが確認されたと記載されています。17頭中4頭(23.5%)が罹患関節における敗血症性病態の既往を有していたとされ、うち1頭は術前6週間の関節穿刺で敗血症が確認され関節固定術時の骨生検でも再確認された症例、別の1頭は外側顆骨折に対するラグスクリュー固定の1か月後にインプラント感染を契機とした敗血性関節炎を発症した症例であったと記載されています。術前跛行は17頭中13頭(76.5%)がAAEP基準でグレード4/5(範囲2-4)と評価されていたとされています。患肢の内訳は左前肢7頭(41.2%)、右前肢7頭(41.2%)、左後肢2頭(11.8%)、右後肢1頭(5.9%)とされています。
手術手技については、側方横臥位でのスリング下または通常の麻酔導入後、関節背側に皮膚切開を加え、外側側副靱帯を骨表面から剥離して関節を脱臼させ、皮下組織と皮膚は温存したうえで、発振ノコギリ(18-22mm)を用いてペイントブラシ状に関節軟骨を除去し、皮質下骨の過剰な削除や関節面の輪郭変化を最小限にとどめたと記載されています。続けて発振ノコギリで皮質下骨に浅い(約1mm)矢状・横断方向のクロスハッチ状の切込みを入れ、より血流の豊富な皮質下骨を露出させたうえで、3.2mmドリルで近位種子骨・MC3/MT3・P1の全ての露出面に深さ2-3mmの穿孔(フォレージ)を行ったとされています。テンションバンドは掌側/底側に8の字状に設置され、1.25mmまたは1.5mmのステンレスワイヤー、あるいは1.7mmのケーブル(DePuy Synthes社製)が用いられたと記載されています。プレートは10・11・12穴の広幅4.5mm LCPが用いられ、背側関節上で約195度に彎曲成形されたうえで、P1側の4つのスクリュー孔のうち遠位から2、3番目の孔に5.5mm皮質骨スクリューを圧迫固定用に、残りの孔には5mmロッキングスクリューを設置したと述べられています。さらにP1に設けたグライド孔を介して、P1からMC3/MT3へ向かう5.5mm経関節スクリューを全頭に設置したとされ、これとは別に、MC3/MT3から各近位種子骨へラグ固定する5.5mmスクリューが17頭中11頭(65%)に追加設置された(うち3頭は片側種子骨のみ、8頭は両側種子骨に設置)と記載されています。プレート周囲にはアミカシン含浸のポリメチルメタクリレート(重合体粉末20g/モノマー液10mL/アミカシン2.5g)が充填され、創部は3層で閉創、全例にハーフリム型のファイバーグラスキャストが装着されたと記載されています。
平均手術時間は136.7分(範囲107-185分)とされ、テンションバンドは17頭中10頭(59%)でケーブル、7頭(41%)でワイヤーが使用されたとされています。術中合併症は3例に記録され、いずれもケーブル使用例でのトラブルであったとされ、ドリルビットの干渉によるケーブル破断1例、ケーブルの締め付け不足1例(いずれも交換)、術中画像上わずかな損傷が疑われたが健全と判断されそのまま使用されたケーブル1例があったと記載されています。術後の関節角度は平均194.4度(範囲188-201度)であったとされています。周術期にはペニシリンGカリウムとゲンタマイシンが3日間、フェニルブタゾンが入院期間を通じて投与され、アミカシンによる静脈内区域灌流(IVRLP)が17頭中15頭(88%)に実施されたと記載されています。短期合併症としては、発熱(体温101.5°F以上、2例)、顔面神経麻痺(1例)、キャスト近位の腫脹(1例)、キャスト褥瘡(4例)、キャスト除去後の重度跛行(1例)が記録され、いずれも退院までに軽快したとされています。平均入院期間は11.4日(範囲4-29日)、キャスト装着期間が判明した7頭での平均は25日(範囲6-56日)であったと記載されています。
長期追跡(平均47.9か月、範囲6-161か月)は全17頭で得られ、記事執筆時点で2頭が安楽死されていたとされています。うち1頭は術後5年以上経過した時点での慢性の胃排出障害によるもの、もう1頭は経過期間1年未満であった3頭のうちの1頭で、術後8か月時点での開腹術(探査開腹術)に伴う合併症によるものであったとされ、いずれも本術式そのものに起因する合併症ではなかったと記載されています。残る全頭は無投薬で無制限の放牧が可能であったとされ、うち1頭は小障害飛越を含む軽度の騎乗運動にも供されていたとされています。去勢していない13頭(牝馬10頭・種雄馬3頭)のうち8頭(61.5%)が少なくとも1頭の産駒を得たか種付けに成功しており、さらに1頭がその年に種付け予定であったとされています。インプラント抜去を要した例はなく、外科的合併症を理由に安楽死された例もなかったとされています。
考察では、TDSAに対する従来の関節固定術の成功率(無制限運動または繁殖供用の達成を成功と定義した場合で25-67%、著者ら自身の施設からの過去の報告ではMCP関節固定術を受けたTDSA症例12頭中9頭(75%)が安楽死)と比較し、本研究でみられたより良好な転帰は、対象病態の違い(TDSAではなくOA)を反映している可能性が高いと述べられています。TDSAでは軟部組織の高度な損傷や血管損傷、再灌流障害を伴うことが多く、繋靱帯装置の喪失により背側インプラントおよび近位指節間関節(PIP)へのストレスが増大するのに対し、OA症例ではこれらの要因が乏しいため、創感染やインプラント破綻、PIP亜脱臼、支持肢蹄葉炎といったTDSA症例で報告される主要合併症がいずれも認められなかったと考察されています。唯一有意な術後合併症であった軽度のキャスト褥瘡についても、LCPによる固定強度の高さから早期(10-14日程度の創治癒後)のキャスト除去が可能であり、これが褥瘡の重症化を抑制した可能性があると述べられています。テンションバンドの材質については、ワイヤーを用いた7例も良好な転帰であったものの、著者らは多繊維製のケーブルの方が屈曲によるストレス集中が生じにくく、単線ワイヤーに比べ引張強度で最大600%優れるとされることから、より優れた選択肢と考えており、実際の合併症も全てケーブル使用例での術中トラブル(破断・締結不良・軽度損傷)に限られていたと記載されています。プレート長については、本コホートでは10穴プレートが標準として用いられ、より長いプレート(11・12穴)は研究初期の症例のみで使用されたとされ、短いプレートの方が背側正中からの角度づけの許容範囲が広く、本コホートでは特に合併症を認めなかったことから、著者らは10穴の広幅LCPがMCP/MTP関節固定術に適していると結論づけています。結論として、中等度から重度のOAを有する馬においてLCPを用いたMCP/MTP関節固定術は考慮されるべき選択肢であり、これらの馬は放牧・繁殖供用に関して良好な長期予後を示すと結論づけられています。
### 日高での意味
球節固定術というと、競走中のブレイクダウンに対する救命手術という印象が先に立ちます。本研究が扱っているのはそれとは別の適応、つまり内科的治療で管理しきれなくなった変形性関節症です。生産地では、繁殖牝馬や引退後の馬が慢性の球節疾患で高度の跛行を呈し、投薬でも快適さを保てなくなる場面があります。そうした馬について、安楽死以外の選択肢として関節固定術を検討する余地があり、しかもその成績はブレイクダウン症例に対する固定術より良好である可能性が示されている、というのが本論文の要点であると読み取れます。特に、術後は大多数の馬が無投薬・無制限放牧を達成し、繁殖供用可能であった馬の6割超が受胎または種付けに成功したと報告されている点は、生産地における意思決定材料の一つになり得ると考えられます。また、キャスト管理期間(平均25日、最短6日)や、インプラント抜去例がなかった点など、術後管理の見通しを飼い主・生産者に説明する際の参考になる可能性があります。ただし本研究は単一施設・17頭の後ろ向き調査であり対照群を伴わない点、また対象馬の内訳(サラブレッド・温血種が中心)が日高で扱う馬の分布と必ずしも一致しない可能性がある点には留意が必要と考えられます。
### 感想
前回の記事とは異なり関節症の症例への関節固定術について記載された論文です。
有名なRichardson先生らのグループから報告されています。
関節症の症例では驚異的な手術成功率が報告されています。
また、手術時間は驚くほど短くその熟練度の高さに驚かされます。
いつの日か、我々も同様の成績を示せるように準備しておきます。
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**出典**:Chapman H-S, Richardson DW, Ortved KF. Arthrodesis of the metacarpophalangeal and metatarsophalangeal joints to treat osteoarthritis in 17 horses. Vet Surg. 2019;48(6):1-8. https://doi.org/10.1111/vsu.13236
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北海道で働く大動物獣医師
X:[@Steelma49143492](https://x.com/Steelma49143492)
関連記事:
- [LCPを用いた球節関節固定術(Carpenter et al. 2008)](https://horserepositorystudy.blogspot.com/2026/09/lcpcarpenter-et-al-2008.html)
- [馬の繋関節不安定症に対するダブルプレート固定法:30症例を対象とした論文紹介](https://horserepositorystudy.blogspot.com/2026/01/30.html)
- [1歳馬のレポジトリー;腕節;剥離骨折, 骨増生](https://horserepositorystudy.blogspot.com/2018/09/1.html)
- [論文紹介:馬の内固定手術における術創感染 155症例 (Curtiss et al. 2019)](https://horserepositorystudy.blogspot.com/2023/01/155curtiss-et-al-2019.html)
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