New Bolton Center(ペンシルベニア大学)から、内固定手術を受けた馬155頭の手術部位感染(SSI)リスク因子を検討した後ろ向き研究です。球節固定に特化した論文ではなく、長骨骨折や各種関節固定を含む内固定全般が対象で、その中に球節固定のデータが含まれています。
## 背景と方法
SSIは馬の整形外科手術で最も重大な合併症の一つで、インプラント使用時の発生率は報告により10〜80%とばらつきます。同院の過去データ(Ahern 2010、1990〜2006年192例)ではSSI 27.6%でした。
- 対象:2008〜2016年に内固定を行った155頭(刺入創からスクリュー1〜4本のみの単純骨折は除外)
- SSI定義:術部の培養陽性、または他に説明のつかない疼痛増悪・発熱を伴う術部排液
- 解析:Firthペナルティ付きロジスティック回帰(単変量→多変量)
## 結果
- SSIは22頭(14.2%)で、過去報告(27.6%)より有意に低い(P=.003)。発症までの中央値9.5日
- 退院率:SSIなし94.0%(125/133)、SSIあり45.5%(10/22)。SSI発症馬は退院までの生存が12.34倍不良(OR 12.34)
**術式別のSSI**
- **TDSAによる球節固定:16頭中8頭(50%)。うち6頭がSSIで安楽死**
- **OAによる球節固定:13頭中0頭**
- PIPJ固定:骨折13頭中1頭、OA 45頭中4頭
- 手根関節固定:骨折2頭中0頭、OA 7頭中2頭
- 尺骨骨折17頭中4頭、脛骨骨折6頭中0頭、第一指(趾)骨骨折11頭中2頭、MC3/MT3顆部骨折17頭中0頭
**多変量解析(パスターン固定を基準)**
- 球節固定:OR 4.27(P=.034)、尺骨骨折:OR 4.88(P=.048)
- 予防的局所抗菌薬の投与期間(1日あたり):OR 1.54(P=.002)。予防できるという仮説と逆の結果ですが、著者らは、感染リスクが高いと判断した症例ほど外科医が積極的に使う選択バイアスの可能性が高いと考察しています
- 退院までの生存(SSI補正後):球節固定OR 32.44、手根関節固定OR 161.66などが非生存と関連(AUC 0.83)
**起因菌**
- 22頭中19頭(86.4%)で同定。グラム陽性単独31.6%、陰性単独21.1%、混合47.4%
- 陽性菌ではEnterococcus属(7/19)が最多、陰性菌ではEnterobacter属(6/19)
- 陽性例の47.4%(9/19)で多剤耐性菌
## 考察と限界
SSI率が低下した要因は特定できず、手術時間の短縮(中央値120分、過去は平均176分)や執刀医の経験蓄積が示唆されています。球節固定と尺骨骨折が高リスクだった点は、広範な軟部組織剥離を伴うこと、TDSAでは局所血流が低下しうること、尺骨は包帯保定しにくいことが挙げられています。限界は、単一施設・少数の執刀医による後ろ向き研究で、局所抗菌薬の使用が外科医の裁量だった点です。
## 日高での意味
同じ球節固定でも、TDSAでは半数がSSI、OAでは0頭という対照は、術前の説明や周術期管理を考える材料になります。また「予防的な局所抗菌薬を使えば安心」という前提を見直すきっかけにもなります。ただし単一施設のデータなので、日高の環境へそのまま当てはめるのは慎重にすべきです。
## 感想
球節の関節固定症例だけを取り扱った論文ではないものの、この分野においても大変参考になる論文ですのでここで取り上げました。
これを見てもTDSAだと感染しています。半分ですから。
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**出典**:Curtiss AL, Stefanovski D, Richardson DW. Surgical site infection associated with equine orthopedic internal fixation: 155 cases (2008-2016). Vet Surg. 2019;48(5):685-693. doi:10.1111/vsu.13216
北海道で働く大動物獣医師
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