注目の投稿
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
今回ご紹介するのは、母馬に蹴られた生後2週の仔馬に生じた脛骨近位成長板のソルター・ハリスⅠ型骨折(脛骨粗面骨折を伴う)を、T字プレートで固定して治療した症例報告です。イランのウルミア大学のMazaheri-Khameneh氏らによる研究で、BMC Veterinary Research誌(2022年、18巻183頁)に掲載されています。オープンアクセスで全文が公開されています。
背景
馬の成長板骨折のうち脛骨は約10%で、脛骨の成長板損傷の多くは近位に生じるとされています。仔馬の脛骨骨折で最も多いのは、骨幹端骨片が成長板面の最大1/3を占めるソルター・ハリスⅡ型です。蹴られることは馬の骨折の主要な原因の一つで、近位成長板や脛骨粗面の骨折では高度の跛行を示す一方、軟部組織の損傷は少なく皮膚は保たれることがほとんどであるとされています。著者らは、脛骨近位のⅠ型骨折はこれまで報告がなく、脛骨粗面骨折を伴う例をT字プレートで治療したのは本例が最初であると述べています。
症例の概要
症例は生後2週齢、体重70kgのクルド種の雌の仔馬で、母馬に蹴られて受傷しました。左後肢の高度な非負重跛行、外反、膝(スティフル)部の動揺、捻髪音がみられ、皮膚の損傷はありませんでした。初診時のX線(2方向)で、脛骨近位成長板のⅠ型骨折と脛骨の背内側への変位が確認されました。
翌日、術前に再撮影したところ、骨片の変位はさらに大きくなって重なり合い、脛骨粗面の骨折も明らかになっていたと記載されています。
手術は、ミダゾラム前投薬、ミダゾラム+ケタミン導入、イソフルラン維持で、左側臥位(患肢を下)に保定して行われました。術前にセファゾリン20mg/kg IMとゲンタマイシン6.6mg/kg IVが投与されています。脛骨内側に10cmの皮膚切開を置き、用手牽引と肢の回旋で整復して、有鉤の整復鉗子で仮固定しました。
固定は、内側に設置した4.5mmの7穴T字プレートと皮質骨スクリュー(近位に7cm×4本、遠位に4.6cm・4.2cm・4.2cm×3本)で、脛骨粗面は6cmの皮質骨スクリュー1本でラグ法により固定しています。術後X線で完全な整復が確認され、ステント式包帯で創部を保護し、術後5日間はセファゾリン、ゲンタマイシン、フルニキシンメグルミンが投与されました。
経過は次のとおりです。
・術後2日:患肢での負重は比較的良好。5日間の入院後に退院し、運動制限と創部管理、1か月後の再診が指示された。
・術後1か月:術創部に化膿性の瘻管が生じ、X線で仮骨形成を確認。生理食塩水での洗浄と、培養感受性に基づく抗菌薬で管理(初期はセファゾリンとゲンタマイシン、感受性結果は選択した薬剤を支持)。3日入院、投薬は排膿がなくなるまで7日間。
・術後8週:跛行なし、負重良好。X線で仮骨形成・骨の治癒を確認。感染は改善していたものの排膿は続いていたため、骨折が十分治癒したと判断した時点でT字プレートを抜去。脛骨粗面のスクリューは、粗面骨折が完全には治癒しておらず、感染を示す所見もなかったため残置された。
・術後5か月:成長は正常で、肢軸異常(angular limb deformity)は認められなかった。
著者らの考察のポイント
・術前の副子:Watkins & Sampson(2019)は、この骨折の配置では開放骨折にならないため術前の外固定は勧められないとしています。これに対し著者らは、本例で受傷後約1日で変位が進行し、粗面骨折が明らかになったことから、開放骨折の予防だけでなくさらなる変位の予防のために、術前に外側から副子で保護することを推奨しています。ただし「副子が有害になる場合もある」とも書いており、手術を遅らせるべきではないとしています。
・プレートの選択:文献では5.5mmのT字プレートと皮質骨スクリューが推奨されていますが、本例では仔馬の体重が軽く、近位骨片が薄く、入手の都合から4.5mmを使用しています。Ⅰ型は成長板面が平坦なため、Ⅱ型よりさまざまな方向に変位しやすいとも考察されています。
・合併症:内側にプレートを置く固定の主要な合併症は、この部位に軟部組織が少なくインプラントが皮膚に近いことによる感染であるとされています。本例の瘻管もこれに当たります。
・脛骨粗面骨折:保存療法(NSAIDs、馬房内安静、運動制限)の成功率は約86%と引用されています(ただし軟部組織損傷のない例)。外科的にはtension band wire、プレートとラグスクリューの併用、骨片の摘出などの報告があります。
・他の固定法:クロスピン固定は3頭中2頭で良好、ハイブリッド創外固定器は本ブログのDe Godoy 2009、プレートとスクリューが最も確実で有効な方法の一つとされています。
著者らは、Ⅰ型の脛骨近位成長板骨折に対するT字プレートは有効な方法として推奨できると結論づけています。なお、1症例の報告です。
日高での意味
放牧地で他馬や母馬に蹴られる事故は、生産地で日常的に起こり得ます。本症例が示す第一の点は、「初回のX線で見えたものがすべてではない」ことです。翌日の再撮影で変位の進行と脛骨粗面骨折が明らかになっています。紹介までに時間を要する場面で、初回の撮影だけで方針を決めきらないことと、搬送前に外側から副子で保護しておくことは、その後の選択肢を狭めないために意味を持つと考えます。ただし副子の効果を直接検証した報告ではなく、著者の1例経験に基づく提案である点は押さえておく必要があります。
第二に、術後5か月で成長が正常で肢軸異常が生じなかったことは、成長板を跨ぐ固定を行った仔馬について説明する際の材料になります。ただし、本例では術後1か月で創部の感染が生じ、プレート抜去まで排膿が続いています。成長だけでなく、内側プレート固定の感染リスクもあわせて伝える必要があると考えられます。なお、追跡期間は5か月であり、生産・競走を見据えた長期予後を示すものではありません。
感想
この部位は成長板骨折に遭遇することが多い箇所の1つであり、私も年間に1-2例ほど遭遇していると記憶している。しかし、そのほぼすべてはタイプⅡであり、今回報告されたタイプⅠにはまだ遭遇していない。
珍しいタイプであるが治療の方針は基本的にはタイプⅡと同様でよさそうに思う。
このタイプの骨折は予後が比較的良いことが経験的にわかっている。早期に診断でき、手術を決断できれば予後は期待できると考えている。
出典:Mazaheri-Khameneh R, Azizi S, Davoodi F, Gooran MM. Surgical management of a Salter-Harris type I proximal physeal fracture of the tibia in a foal: a case report. BMC Vet Res. 2022;18(1):183. DOI: 10.1186/s12917-022-03285-6(PMID: 35578200 / PMCID: PMC9109413、オープンアクセス)
北海道で働く大動物獣医師
関連記事(脛骨近位成長板骨折シリーズ)
- 仔馬の脛骨近位成長板骨折に対する海綿骨スクリュー固定4例(Wagner et al. 1984)
- 仔馬の脛骨近位成長板骨折に対するプレート固定2例(White et al. 1982)
- 仔馬の脛骨近位ソルター・ハリスⅡ型骨折に対するハイブリッド創外固定器の使用1例(De Godoy et al. 2009)

コメント
コメントを投稿