注目の投稿

仔馬の脛骨近位ソルター・ハリスⅡ型骨折に対するハイブリッド創外固定器の使用1例(De Godoy et al. 2009)

 


今回ご紹介するのは、生後5か月の仔馬の脛骨近位ソルター・ハリスⅡ型骨折を、ハイブリッド創外固定器(HEF)で治療した症例報告です。ブラジリア大学(ブラジル)のDe Godoy氏らによる報告で、*Veterinary Surgery*誌(2009年、38巻5号650-653頁)に掲載されています。


背景:なぜ創外固定か


著者らは、仔馬の脛骨近位成長板骨折で最も多いのは、外側に骨幹端骨片を伴うソルター・ハリスⅡ型で、骨片は成長板面の最大で約1/3を占めると述べています。変位が小さければ保存療法も可能ですが、変位や外反変形が進行する場合は外科的固定が勧められるとされ、術後の肢長差や競走能力に対する予後は不明であるとも書かれています。


仔馬の成長板骨折の固定は、プレート、ラグ法によるスクリュー、横断ピン(Charnley装置)、交叉ピンなどが報告されており、脛骨近位ではプレート、海綿骨スクリュー、スタインマンピンとCharnley装置の併用の報告があります。著者らの知る限り、この骨折に創外固定を用いた例はありませんでした。創外固定の利点として、術直後から負重できること、関節の可動性が保たれること、骨折部にインプラントを置かずに済み、骨癒合と創傷治癒に良い環境が得られることが挙げられています。


HEFは、輪状(Ilizarov型)の固定器と直線型の創外固定器を組み合わせたものです。緊張をかけたワイヤーで小さな関節周囲骨片も関節の動きを妨げずに固定でき、骨幹部はシャンツピンで固定できます。AO tubular系とIlizarov系のパーツで組めるため費用面でも現実的と述べられています。なお、HEFの生体力学の知見は大型反芻動物のin vitroの研究が主で、臨床使用の報告は馬ではなかったとされています。


症例の概要


症例は品種不明の生後5か月の雄の仔馬、体重約100kgで、交通事故(vehicular trauma)による受傷です。来院前の応急処置はなく、右後肢は非負重で外反し、膝周囲が動揺していました。X線で、外側に骨幹端骨片を伴う右脛骨近位のⅡ型骨折が確認され、手術まで変形トーマス副子で固定されました。


固定器は直線部品(柔軟ワイヤー4本、ハーフスレッド式連結ロッド3本[250mm]、シャンツピン3本[4.8×200mm])と、仔馬の肢の大きさに合わせた半円リング2個で構成されています。


手術は、キシラジン前投薬、ミダゾラム+ケタミン導入、ハロタン維持に加え、くも膜下腔へのロピバカイン投与のうえ、背臥位で行われました。脛骨内側に約25cmの半月状の皮膚切開を置き、内側伏在の血管・神経を避けて骨折部に到達し、牽引で整復して、Farabeuf鉗子で仮固定しています。組み立ての手順は次のとおりです。


1. 近位骨片に、ドリルでワイヤー2本を「X」字に通して近位の半リングに連結

2. 近位の半リングに、連結ロッドを頭側・内側・外側の3本で接続

3. 骨幹部にシャンツピン3本を平行に挿入し、中央のロッドに連結

4. その遠位に、ワイヤー2本を「X」字に通して遠位の半リングに連結し、ロッドに接続

5. 骨折部に上腕骨から採取した海綿骨を移植し、層ごとに閉創


術後は、馬房(3×4m)で60日間飼養されました。創部管理は毎日の包帯交換、70%イソプロピルアルコールによるピン周囲の洗浄、1%ポビドンヨード、ピン刺入部へのゲンタマイシンペーストです。全身投与は、ゲンタマイシン(6.6mg/kg IM、5日間)、ベンザチンペニシリン(4万U/kg IM、隔日20日間)、硬膜外モルヒネ(0.1mg/kg、12時間ごと)、フェニルブタゾン(2.2mg/kg IV、1日2回、5日間)でした。


経過は、術直後から比較的良好な負重が得られ、術後の合併症はありませんでした。術後30日のX線で骨折部の癒合(仮骨形成)が確認され、解剖学的な軸は概ね保たれていたものの、脛骨のわずかな外反が残っていたと記載されています。術後60日でHEFを抜去し、この時点の跛行は1/5度、肢長差は目立たず、退院しました。


**術後1年**の評価では、X線上は良好な治癒がみられた一方、**変性関節疾患の所見と骨硬化**があり、明らかな肢の短縮はなく、外反変形は軽微で、速歩での跛行は検出されなかったと記載されています。


考察では、DCPによる内固定は安定性に優れる一方で肢長差につながりうるため、治癒後に抜去が必要になることがあるが、HEFではこうした合併症は起こらないように見える、と述べられています(この点の根拠は大型反芻動物のin vitro研究の引用です)。著者らは、本例のHEFは良好な骨治癒を得て合併症なく60日で抜去でき、関節周囲骨折の一部にHEFが有用かもしれないと結論しています。


 日高での意味


この報告は、脛骨近位成長板骨折の固定に「創外固定」という別系統の選択肢が成立しうることを示す、数少ない症例です。ただし本文を読むと、読み方には注意が要ります。


第一に、症例は生後5か月、約100kgの仔馬です。生産地で最も遭遇しやすい生後数週以内の小さな仔馬に、そのまま当てはめられるわけではありません。第二に、術後1年のX線で変性関節疾患と骨硬化が認められている点です。要旨だけを読むと「合併症なく良好」に見えますが、本文では長期の関節の所見に触れられています。第三に、「創外固定ではDCPのような肢長差の合併症は起こらないように見える」という記述は、本例の結果というより大型反芻動物のin vitro研究に依拠した推論です。


紹介判断の観点からは、固定法が一つではないこと、そして創外固定は術後のピン刺入部の管理(本例では毎日の洗浄・包帯、60日間の飼養)という手間を前提にしたものであることを、あわせて理解しておく価値があると考えます。なお1症例であり、一般化はできません。


感想

創外固定でこの位置の骨折を治療していくのはなかなかイメージがわきにくい。原稿では実際の創外固定をつけている馬の画像も掲載されている。
それを見ても自分たちの主な診療対象であるサラブレッドの仔馬が創外固定をつけているイメージがわかない。


**出典**:De Godoy RF, Filgueiras RR, Gontijo LA, Ximenes FHB, De Gouvêa LV, Da Silva Pereira C, Almeida RM, Leite CR, Neto ART, Borges JRJ. Treatment of a periarticular tibial fracture in a foal with a hybrid external fixator. Vet Surg. 2009;38(5):650–653. DOI: 10.1111/j.1532-950X.2009.00549.x(PMID: 19573069)


---


北海道で働く大動物獣医師

X:[@Steelma49143492](https://x.com/Steelma49143492)


コメント