ここまでの3本は、頸椎の関節への注射でした。
今回ご紹介するのは、もう一歩深い場所、頸神経の根元(神経根)に注射する技術の報告です。Fouquetらが2022年に Frontiers in Veterinary Science に発表したもので、麻酔下の馬5頭を使い、超音波ガイド下で第3〜第8頸神経根に注射したときの精度と安全性を、CTと解剖で調べています。
背景として著者らは、馬にも頸神経根症(radiculopathy)があり、頸椎関節の変形による椎間孔の狭窄で神経根が圧迫されて起こると考えられていること、症状が頸部痛、筋萎縮、知覚の低下や過敏、発汗斑、跳ねるような前肢の跛行など非特異的なため診断が除外診断になりがちなことを挙げています。第6〜第8頸神経の腹側枝は腕神経叢を作るため、ここが圧迫されると前肢の跛行につながります。人や犬では神経根周囲へのステロイド注射が行われますが、馬では治療法の報告がありません。
研究の概要
まず予備研究として、別の馬5頭の頸部を解剖し、椎間孔、関節突起関節、椎骨動静脈と神経根の位置関係を確認しました。さらに鎮静下の馬2頭で超音波像を繰り返し確認し、各神経根の腹側枝と椎骨動静脈を描出できるようにしています。
本実験には、他の理由で提供された20〜22歳のアラブ種の牝馬5頭が使われました。全身麻酔下で横臥させ、上側の前肢を尾側へ引いて尾側頸部を露出します。超音波は6 MHzのコンベックス探触子で、第2-第3頸椎の関節を目印に頭側から尾側へ走査し、椎骨動静脈を描出してから、そのすぐ背側を走る神経根の腹側枝を探します。針は9 cmの18G脊髄針で、探触子の腹側から入れ、先端が椎骨動脈の背側、神経の腹側枝に接するところまで進めます。最終の接近ではカラードプラで血流がないことを確認しました。
注入したのは、着色ラテックス0.5 mLと造影剤1 mLを混ぜた1.5 mLです。第3〜第8頸神経根を左右に行い、予定60か所のうち59か所に注射しました(1か所は神経を取り違えて実施できなかった)。注射の直後に安楽殺し、CT撮影のあと、ラテックスが固まるのを待って3日後に解剖しています。
結果
描出と手技。腹側枝は全体の89%、第6〜第8頸神経では96.7%で注射前に描出できました。尾側の神経ほど太く、見つけやすかったと記載されています。処置時間は平均40秒(±23.25秒)で、部位による差はありませんでした。針を修正したのは59か所中4か所(6.8%)で、内訳は、スタイレットを抜いたときに血液が見えたのが2か所、馬がわずかに動いたのが1か所、第一刺入で横突起に当たったのが1か所です。
精度。CTでは、回収できた55か所の76.4%で神経根に直接接する位置に造影剤が入っていました。解剖では57か所の73.7%で、ラテックスが神経根(腹側枝と背側枝)に直接接していました。背側枝だけで見ると98.3%です。直接接していなかった場合の距離は、CTで13 mm(四分位範囲4)、解剖で4 mm(同3.5)でした。部位(第3〜第8頸神経)、処置時間、経験による差は見られませんでした。
安全面。ラテックスが神経鞘の中に入っていたのが57か所中6か所(11%)でした。椎骨動脈・静脈の内腔にラテックスはなく、注入物が回収できなかった1頭では脳の連続切片も調べられましたが、塞栓は見られませんでした。ただしCTでは、椎骨血管の壁に造影剤が見えたものが55か所中2か所(3.6%)ありました。椎間孔を越えて脊柱管内に薬液が入ったものが、CTで2か所(3.6%)、解剖で1か所(1.7%)あります。いずれもラテックスの大部分は管外にあり、神経鞘から硬膜外へ移行した可能性が考察されています。解剖では、血液が引けた2か所に小さな血腫が見つかりました。
著者らの提案
臨床応用に向けて、著者らは以下の点を述べています。針の先端と神経の腹側枝との間に3〜5 mmの余裕を保つこと。鎮静を十分にかけ、頭を固定台に載せること。皮膚を局所麻酔で無痛にすること。助手がスタイレットを抜く間、針を皮膚の近くで固定すること。また、ステロイドはメチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾンなどの懸濁剤ではなく、非懸濁性のデキサメタゾンリン酸エステルが望ましいかもしれないとしています(粒子が赤血球より大きく、血管を詰まらせうるという理由です)。ただしこれは本研究で検証した内容ではありません。
日高での意味
この論文は「立位の馬でこの注射をしてよい」という根拠にはなりません。著者らも、全身麻酔下で動かない状態だったこと、20歳を超える筋量の少ない老齢のアラブ種5頭で、術者も1名だったこと、薬液が1.5 mLと少量だったことを限界に挙げ、立位・鎮静下の臨床例での検証が次の課題だとしています。
それでも、頸椎関節の注射が「当たるかどうか」を論じてきた前3本の延長で、この論文は逆の問いを投げかけています。針の先が神経や血管、脊柱管のごく近くまで届く手技である以上、「当たる」ことは同時に危険でもあります。関節注射と神経根注射では、求められる精度と許容されるリスクの種類が違う、ということを確認しておきたいと思います。
感想
ここまで実施するのは・・・。
読んでみて、ここまではやりたくないなという感想が。
まずは関節注射を実施したいと思います。
出典
Fouquet G, Abbas G, Johnson JP, Pompermayer E, Harel C, Aldous E, Puchalski S, David F. Ultrasound-guided injection technique of the equine cervical nerve roots. Frontiers in Veterinary Science. 2022;9:992208. doi:10.3389/fvets.2022.992208
X(旧Twitter):@Steelma49143492
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