前回の死体研究では、頸椎関節への超音波ガイド下注射の精度は約9割でした。ただし病変のない関節での結果で、実際の臨床例とは条件が違います。今回ご紹介するのは、生きた馬での精度を調べた報告です。Davidsonらが2025年に Equine Veterinary Journal に発表したもので、ペンシルベニア大学での14年間の記録から、尾側の頸椎関節(第4頸椎〜第1胸椎)への注射の成功率を検討しています。
著者らが問題にしているのは、頸椎関節の骨変化です。臨床例では骨棘や関節縁の変形が多く、超音波での描出や針の到達を妨げるおそれがあります。また、頸椎注射への反応は「頸部が症状の原因かどうか」を判断する材料にもされるため、注射が本当に関節内に入っているかどうかが診断にも関わります。
研究の概要
後ろ向きの症例研究です。2006年11月〜2020年12月に、改良頭側アプローチ(modified cranial approach)による超音波ガイド下の尾側頸椎関節注射を受けた成馬149頭(のべ177回の入院)が対象で、注射された関節は658か所でした。年齢は1〜29歳(中央値9歳)、品種はウォームブラッドが63.8%、サラブレッドが24.2%です。入院時の主訴は、跛行が79頭(44.6%)、パフォーマンス低下が68頭(38.4%)、運動失調が42頭(23.7%)、頸部痛・こわばりが33頭(18.6%)でした。処置の目的は、治療が145回、診断が32回です。
手技は、2人で行う方法(超音波を操作する人と、針を操作する人)です。毛刈りはせず、アルコールを接触媒体とし、探触子は滅菌手袋で覆います。探触子は頸の長軸に垂直に当てて関節を描出したのち、頭側へ約70°回転させ、関節の前縁・後縁が両方とも高エコーの縁として見える像に合わせます。針は9 cmの20G脊髄針で、探触子の頭側縁の2〜3 cm頭側から、超音波ビームと平行に尾側・軸側へ進めます。ガイド装置は使わず、フリーハンドです。
成功の定義は、針から関節液が引けたことです。頸椎X線像(側方像)は放射線科専門医が盲検で評価し、関節の腫大の程度をグレード1〜5bに分類しています。
結果
658関節中586関節(89.1%)で関節液が引けました。部位別では、第4-第5頸椎が75%(40関節中30)、第5-第6が89%(250中222)、第6-第7が92%(322中295)、第7頸椎-第1胸椎が85%(46中39)です。第6-第7は第4-第5に比べて関節液が引ける確率が約7倍高く(オッズ比6.78、95%CI 1.67〜27.52、p = 0.007)、これが唯一の有意な因子でした。
骨変化の程度(Rgrade)、左右、術者は、いずれも成功率に有意な影響を与えませんでした。術者は11名で、うち1名が151回中100回を担当しています。腫大のないRgrade 1の成功率が91%(109関節中99)、重度のRgrade 5bが91%(34関節中31)と、骨変化の有無で差がありませんでした。著者らは、超音波で関節縁の形を見ながら探触子の位置を微調整したことが、骨変化のある関節でも成功率が保たれた一因ではないかと考察しています。
第7頸椎-第1胸椎の関節への超音波ガイド下注射を記載したのは、この研究が最初です。この部位は深く画像が劣るものの、85%の成功率でした。
限界と解釈
最大の注意点は、「関節液が引けた」ことを「関節内に入った」ことの証明としている点です。著者ら自身も、死体の造影研究では超音波ガイド下の注射の17〜25%が関節包内、12〜31%が関節周囲に入っていたこと、針を関節内に置いても関節液が引けないことがあること(逆に、関節液が引けたあとに針が動くこともありうること)を述べています。実際に薬液が関節内に入ったことは、本研究では確認されていません。
そのほか、後ろ向き研究であること、術者の経験の影響や、1人法と2人法の違いは検討できていないこと、関節液が引けなかった11%の理由が不明であることが挙げられています。なお、関節液が引けなかったときに針を修正した回数は、記録に残っていませんでした。
日高での意味
前回の死体研究と並べて読むと、関節内注入率はどちらも約9割で、よく合っています。一方、関節液が引けた割合は、死体では42.4%だったのに対し、この生体研究では89.1%でした。著者らは、生きた馬のほうが関節液が引けた割合が高かったと述べています。
ここで押さえておきたいのは、「約9割」が関節液が引けた割合であって、関節内への注入が確認された割合ではない、という点です。関節液が引けなかった約1割の中にも関節内に入っていた例があるかもしれず、引けた中にも関節外へ入った例が含まれるかもしれません。注射への反応で診断を組み立てる場合、反応がないことが「頸椎が原因ではない」ことを意味するのか、「注射が外れていた」ことを意味するのかは、完全には区別できません。また、対象は単一の大学病院の症例で、2人体制・超音波・鎮静下の条件がそろった結果であり、そのまま現場の条件に移せるとは限りません。
感想
この論文でより関節内への穿刺および関節液の回収が難しいすぎる手技ではないことがしめされている。これで実際にかなり”実行可能な手技”として認知できる。
出典
Davidson EJ, Stefanovski D, Slack J, Manzi TJ. Ultrasound-guided caudal cervical articular process arthrocentesis is accurate in live horses with and without arthropathy. Equine Veterinary Journal. 2025;57(2):398–405. doi:10.1111/evj.14133
X(旧Twitter):@Steelma49143492

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