前回の論文では、頸椎ファセット関節への注射を受けた馬の約7割で改善が報告されていました。ただ、注射が実際に関節の中に入っていたかどうかは、そこでは分かっていません。
今回ご紹介するのは、その精度を調べた死体研究です。Johnsonらが2017年に Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology に発表したもので、頸椎関節突起間関節(頸椎のファセット関節)への超音波ガイド下注射を、造影CTで検証しています。
それまでに精度が検証されていたのは、Nielsenらによる背側(dorsal、D)アプローチだけでした。その成績は、関節内が72%、関節包内にとどまったものが17%と報告されています。著者らは、まだ報告のなかった頭背側(craniodorsal、CrD)アプローチを記載・検証し、Dアプローチと比較しました。あわせて、探触子の種類、針の太さ、術者の経験の影響も調べています。
研究の概要
対象は、跛行・頸部痛・運動失調以外の理由で安楽殺された成馬14頭(サラブレッド5頭、アイリッシュスポーツホース9頭)の頸部です。第2〜第7頸椎の関節を左右に注射し、140関節が対象となりました。
Dアプローチは、探触子を頸の長軸に対して垂直(約90°)に当て、その背側から針を入れる方法です。CrDアプローチは、探触子を頭側へ約45°回転させ、頭背側から針を入れる方法です。針は9 cmの脊髄針(18Gまたは20G)、探触子はリニア(13 MHz)またはマイクロコンベックス(10 MHz)で、術者は経験者と未経験者の2名でした。これらの組み合わせは関節ごとにコイントスで割り付けられ、各関節に1.5 mLのヨード造影剤が注入されています。
評価はCTで行われ、造影剤の分布を1〜6点で採点しました。関節内に造影剤が見えたもの(3点以上)を「成功」としています。標本の処理に失敗した、あるいは皮下ガスで描出できなかった8関節は除外され、132関節が解析されました。
結果
全体では132関節中118関節(89.4%)で造影剤が関節内に入っていました。アプローチ別では、Dが68関節中61関節(89.7%)、CrDが64関節中57関節(89.0%)で、差はありません。探触子の種類、針の太さ、左右差、術者も、成功率には有意な影響を与えませんでした。
有意だったのは関節の部位です。第2-第3頸椎の関節は28関節中7関節で外れ(成功率75%)、最も外れが多い部位でした。これに対して第5-第6頸椎では18関節すべてが成功しています。第2-第3頸椎は浅く、針の角度が急になり、針を修正する余地が小さいことに加え、関節の容積も尾側より小さいためだと考察されています。
探触子と針の太さは、成功率ではなく手技の効率に関係していました。マイクロコンベックスでは処置時間が23%短く、針の修正回数が28%少なくなりました。20Gの針は18Gよりも修正回数が多く、関節液が引けにくい傾向がありました。処置時間の平均は51.7秒(3〜390秒)、針の修正回数の平均は2.6回(0〜14回)です。
この論文でとくに印象的なのは、関節液の話です。関節内に注入できたのが89.4%だったのに対し、吸引で関節液が引けたのは56回(42.4%)にすぎませんでした。つまり、関節液が引けなくても関節内に入っていることは珍しくありません。
造影剤が針の刺入経路に逆流した例(5点)が132関節中48関節(36.4%)あり、関節周囲への薬液の漏れはある程度避けられないと著者らは述べています。
術者の経験について
経験者の成功率は95.4%、未経験者は83.6%でした。ただし術者が2名しかいないため、経験の影響についての結論は出せないとされています。なお抄録には未経験者に学習曲線が見られたとの記載があり、本文の考察の記載とは温度差があります。
安全面
著者らは、椎骨動脈が関節の腹側に位置すること、針を深く進めすぎると神経根や神経節に達しうることを指摘し、関節包を貫いたあとは針を1 cm以上進めないこと、注入前に吸引することを勧めています。CrDアプローチは、頸神経の背側枝・腹側枝を避けられる点で有利だと考察されています。また、18Gの針が見やすく操作しやすいことから、18Gを推奨しています。
日高での意味
日常診療に持ち帰れる点は3つあると思います。1つ目は、DとCrDのどちらでも約9割が関節内に入っており、機材(探触子)も大きくは成否を分けないこと。2つ目は、第2-第3頸椎が最も難しい部位だということ。3つ目は、関節液が引けなかったことをもって「外れた」と判断するのは早計だということです。
一方で、この研究は病変のない死体の関節を対象にしており、立位で動く生きた馬での成績ではありません。著者ら自身も、骨棘などのある病的な関節ではCrDのほうが有利かもしれないと推測していますが、本研究ではそれは確かめられていません。次回は、この点を生きた馬で検証した報告を紹介します。
感想
この手技の成功率の高さを示している論文だと思っています。
この論文において示されるように未経験者であっても一定以上の成功率を示しています。
このため、手技としては簡便であることを示しています。
出典
Johnson JP, Stack JD, Rowan C, Handel I, O'Leary JM. Ultrasound-guided approach to the cervical articular process joints in horses: a validation of the technique in cadavers. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology. 2017;30:165–171. doi:10.3415/VCOT-16-09-0139
X(旧Twitter):@Steelma49143492
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